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「いや、今は、つきあっている恋人は、いない」
安田は、自分は恋愛などに興味はない、と相手に印象づけるように答えた。なのに、西島は、嬉しそうに、ぱっと目を輝かせて、
「ほんとですか!? 僕もいません。したことも、ありません」
と言った。キスも初めてなら、セックスなどしたことなどないのは当たり前だろう。なんとか、流れを断ち切ろうと、
「誰か君を好きな子がいるんじゃないか?」
と安田は聞いた。
だが、自分で聞いておいて『君は、可愛いから』とあやうく言いそうになって、そんなことを言ったら事態を悪化させるであろうことに気づき、言葉を呑み込んだ。
「いません……そんな人いません。いたとしても、僕は、僕の好きな人としか、つきあいません」
西島は、きっぱりと言った。
「僕、先生とセックスがしたいんです」
「西島……」
安田は、あわてた。生徒に告白されることはあっても、好きです、と言われるだけで、つきあってくださいと言うものは、まれだった。まして、こんなことを面と向かって頼まれたことはない。この状況に、西島は、きっと、おかしくなっているのだ。そうとしか思えない。こんな大人しそうな生徒がこんな、大胆な発言……。
「気を確かにするんだ」
「気は確かです。僕、前から、先生のこと、好きだったんです。もう、がまんできません」
何を言っているんだ。化け物に言わされているのか?
「だめだよ。教師と生徒で、そんなこと、するもんじゃない」
すがりつく西島に安田は、かろうじて残った理性で言った。
「したいんです。僕、がまんできないんです。僕のこと、そんなに嫌いですか?」
「嫌いじゃないよ」
ナイーブな生徒の心を、無げに断ることで、傷つけたくはない。
「嫌いじゃないなら、好きですか?」
西島は重ねて聞いた。
「……好きだよ。でも、そういうんじゃない。生徒として、好きだ」
安田は、教師らしくふるまおうと努力した。
「僕は違います。先生としても好きですが、男として、性の対象として、好きです。僕としてください」
安田は、くらくらした。こんな可愛らしい口から、そんな激しく、恥ずかしいことばが出るなんて。
「男が、好きなのか?」
安田は聞いた。
「違います。安田先生が好きなんです」
西島は、安田の身体にぎゅっとつかまった。
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