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 安田も、生徒にからみついた触手をほどこうと手をかけたが、すべるばかりで、ビクともしない。安田は、教室の後ろの戸口近くにある灰色の鉄製の掃除用具入れの扉を勢いよく開け、そこに吊り下げられた、ちりとりを持ってきて、振りかぶり、振り下ろし、鋭いブリキの角で、触手を思いきり刺した。  透明で青緑色の液体がシャーッと噴き出し、安田と西島の髪や、顔や、白いワイシャツを濡らした。 「イヤーッ!」 西島は、腕で顔をおおって叫んだ。  濡れた西島のワイシャツは濡れて、べったりと肌にはりつき、乳首が透けて見えた。西島の顔は、まるで顔射されたかのように、ねっとりした青緑色の透明な液体で汚されていた。  生暖かく、生臭い粘液に、安田もまた汚された。安田の息が荒くなったのは、武器をふりかざして怪物と格闘したせいだけではない。  安田は、性的に高揚していた。  生臭い巨大生物の青緑色の体液や、ぬめぬめと触手にからみついた粘液にまみれた、教師の自分と美少年の生徒。  美しい……。安田は状況に酔った。今さらながらに安田は気づいた。生徒の西島は、美しいと。そんなことを、こんな危機的なときに気づくだなんて。そんなことを思っている場合ではないのに!  いや、だが、だからこそ、この美しい生徒を自分は命がけで助けねばならない。安田は、そう決意した。  安田の頭の中で、ベートーヴェンの交響曲第三番「エロイカ」が流れた。そう、これは、英雄と巨大イカの命を懸けた闘いだ。エロイカとエロイカの対決だ。安田は武者震いした。
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