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安田が目覚めると、軍医ーー安田はすっかり主治医のことを心の中で軍医と呼んでいたーーがベッド脇にいて、ベッドを見下ろしていた。隣では、裸の肩を布団から出して、西島が寝ている。現行犯だ。言い逃れはできない。
「あ、すみません」
安田は慌てて起き上がった。軍医は、いかめしい顔つきで、二人を見下ろしていた。
「まだ、後遺症が出ているようだね。ちなみに、この部屋のようすは、監視カメラで見させてもらっているから」
と軍医は安田に告げた。
「えっ、そうなんですか。失礼しました」
安田は、恥じ入った。そういえば、事前に、入院する部屋は保護観察室だと言われていたような気もするが、よく理解していなかった。
「君たちの性衝動の亢進は、イカに襲われたことによる後遺症だ」
と軍医は診断をくだした。軍医は説明した。
「巨大イカの粘液の分析結果が出た。巨大イカの粘液や体液には媚薬効果があることがわかった。触れるだけでなく、臭気を嗅いだだけでも、効果がある」
「ということは、我々が異常なわけではないんですね」
安田は、軍医に聞いた。
「そういうことです。安心なさい。自然に、徐々に、衝動は、おさまっていくでしょう」
軍医は安田に検査結果を告げ終わると、病室から出ていった。
やはり、あの時の異常な興奮の経験は、巨大イカの発する粘液による媚薬効果のせいだったのか。
そう振り返り、安田は、安堵した。これで、自分の正常性が、確保されたからだ。
安田の隣で、西島が目を覚ましたようだった。西島は、安田に抱きついてきた。
「待て待て、監視カメラで見られているそうだ」
安田は西島の行動を制止した。
「えっ、そうなんですか。じゃあ、さっきのも……」
西島は、顔を赤くして、安田からそむけ、うつむけた。
「そう。見られていたんだよ。でも、それは、巨大イカの粘液に性欲亢進作用があるせいだそうだから、大丈夫だ」
安田は説明した。
「え、そうだったんですか」
西島が安田の顔を見た。
「君の幼い頃のイカとの戯れも、そのせいだったんじゃないかな」
安田は、結論づけた。
「そうだったんでしょうか」
「今もまだ、我々は、治っていないが、この衝動も、徐々におさまっていくそうだ」
安田は、西島と自分を励ました。
「そうなんですね……」
西島も、ほっとしたような顔をした。
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