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今では、安田と西島は、健全な師弟愛で結ばれている。それが恋に発展する可能性は、今のところ、わからない。あるかもしれないし、ないかもしれない。何しろ、西島は、イカが好きらしいから。
そういえば、帰りの新幹線で西島から、
「先生はイカのような人だ」
と野菊の墓のようなことを言われたが、喜んでいいのか、微妙だった。イカのような人って、どんな人だろうと、安田は、しばらく考えてしまったが、子どもの言うことだ、と思い、
「ありがとう」
と言っておいた。うっかり、研究所で、安田ではなく、イカが好き、と言ってしまったことを、西島なりに、悪かった、と思っているのかもしれない。恋愛的な意味で、イカが好きなのか、単に研究対象として好きなのか、イカでイカれて、一時的に興奮して安田を好きだと言っていたのか、ほんとうに安田のことが好きだったのか、西島の気持ちは、よくわからない。西島に、
「イカのように好き」
と言われても、安田には、その気持ちがわからないので保留にしておけるのが幸いだ。
とりあえず、西島は、安田が、自衛官に抱かれて、射精したことを、いつまでも、うらみがましく言ってくる。西島だって、イカやマッドサイエンティストと仲がいいじゃないか、と言い返したい、というのが悩みといえば悩みの、平和な日常が戻ってきたことに、安田は感謝した。
(完)
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