転校生

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転校生

 東雲瀧は黒板をぼーっと眺めながら頬杖をついていた。教室の中は夏の熱気で蒸し暑くうだるような暑さだった。開け放たれた窓からはわずかな風が吹き込んで来ていたがそれは冷気よりも暑い空気を運んできていた。 「暑い……」  独り言のように呟く。担任の榊原先生は何百年も前に詠まれた詩を黒板に書き込んでいた。榊原先生は二十五歳になったばかりの若い先生で細身の体型に長い髪をいつもポニーテールに縛っているのが特徴的な先生だった。身長も低く童顔の為、あまり年上に見られず男子生徒からはまるで同級生のように慕われている。人懐っこく面倒見のいい性格なので男子生徒にも女子生徒にも人気のある人だった。  普段は穏和な性格だが、怒ったときに迫力は相当なものがある。高校一年生の時、榊原先生の授業中に執拗に先生に絡み授業を妨害した同級生がいた。その同級生は榊原先生に好意を抱いていて構ってほしかったのだろうと思う。先生が何度注意してもそいつは授業の妨害をやめようとはしなかった。当時の学級委員だった女の子がそいつを注意した時、そいつは学級委員の子を口汚く罵った。先生以外に注意されるのが気に入らなかったのだろう。  それを聞いた先生はそいつを一括した。学校中に響き渡るような大きな声で。その後、淡々とそいつが言った言葉の重さと酷さを説いて聞かせた。ただ、その間一度も先生は目を逸らさなかったし声は優しかったが顔は一度も笑っていなかった。そいつは結局泣き出してしまったが、先生は泣いたところで許してはくれなかった。顔をぐしゃぐしゃにしながら学級委員長に謝るその光景は恐怖の一言だった。  あれは見た人しか分からない怖さだった。瀧は同じクラスだったので榊原先生の恐ろしさは身に染みている。まず間違いなく敵に回してはいけないタイプの人間だった。
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