Episode 02 レイニー・ブルー

2/12
前へ
/256ページ
次へ
「……という感じに、明日のHR内での結成式をもって、正式に文化祭実行委員会が発足されます。以後この部屋が拠点となるので、自分の担当に関する装備品などの管理は徹底すること。役割分担や細かいワークスケジュールはプリントで確認してください。明日から放課後にはこの緑色の腕章を付けて動くように。それから、三年生には一年の各クラスへアドバイザーとして入ってもらいたいので、この後振り分けの相談をお願いします。……最後に、年間最大の行事である文化祭を盛り上げるために、全員の健闘に期待します。何か思いついたなら、どんどん実行行動しちゃってください。文句や苦情を言う人間がいたら、中川のところへ来い、と伝えてください。以上、質問は?」  誰もがわくわくと顔を輝かせて無言のままだ。 「それじゃあ、解散。よろしくお願いします」  わっと口々に言葉を交わしながら委員たちがばらけていった。 「盛り上がってきたね」  高揚感でいっぱいになっている拓己の隣で、片瀬もこくこく頷いている。雰囲気にあてられそうになりながら、正人はひそかに舌を巻いていた。  中川美登利、侮りがたし。  校舎を出る頃には雨が降り始めていた。傘を持っていた拓己が入れてくれようとしたけれど、 「コンビニ寄ってくからいいよ。食いもん買ってきたいし」 「ぼく先に帰ってるよ」 「ああ」  近くのコンビニでカップラーメンとビニール傘を買って、寮への道を急ぐ。河原沿いの道を歩いていると気になる光景に行きあたった。  河原の芝生の一角にある東屋のベンチに、青陵の制服を着た女の子が座っていた。正人の脳裏にちらりとひらめくものがある。 (もしかして……)  朝もここにいなかったか? あの子。 (まさかね)  考え事をしながら歩いていたから足元がおろそかになっていた。左足のかかとに何かが当たって転びそうになる。 「え……」  正人の前を歩いていた老婦人が抱えていた袋から、缶詰が次々に転がり出していた。 「大丈夫ですか?」 「ええ、ええ。ごめんなさいねえ」  彼女が屈むと、また缶詰が転がり落ちる。 「それ、おれが持ちます」  レジバッグを持ち、転がっている缶詰を手早く拾う。 「お家はどこですか? 持っていきます」 「ありがとう。優しいのねえ」  婦人は目元に皺を寄せ上品に微笑んだ。 「家はね、そこの石段を上がったところなの」
/256ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加