Episode 02 レイニー・ブルー

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 一緒に階段を上りながら、婦人は再び「ごめんなさいねえ」とつぶやいた。 「あそこに海外の食材のお店ができたでしょう。珍しくてついいろいろ買ってしまって。ダメよねえ、ちゃんと後のことを考えなくちゃ」  石段を上りきってすぐの大きな白い家の前で婦人は立ち止まった。表札には『城山』とある。 「どうもありがとう。ここで大丈夫よ」  レジバッグの中から缶詰を四つ取り出し、正人に差し出す。 「お礼にどうぞ。青陵の寮生さんでしょう? 良かったらお夜食にどうぞ」 「ありがとうございます」  遠慮なく受け取ると、城山夫人はますます目元を細めて嬉しそうに微笑んだ。   「今年の一年はどうなってるんだ。小粒に揃ってるんじゃなかったのか」  出し抜けに文句を言い始めた綾小路に女性陣の対応は辛かった。 「やだねえ、この人。ひと月も前のネタを引きずって」 「粘着質ですね、意外と」 「頭固すぎ」  ぶるぶると震える綾小路の様子に首を竦めて、一ノ瀬誠が「まあまあ」とつぶやく。 「一年生がどうかしたの?」 「無断欠席二日目。明日もこうなら対応を考えなければ」  綾小路が差し出した名簿に美登利はさっと目を通す。 「一年一組、須藤恵」  両脇から坂野今日子と船岡和美も覗き込む。 「この子知ってるよ。調理部の可愛い子」 「佐伯先輩の彼女さんですか?」 「違う、違う。今朝見かけたのは三組の小暮綾香」  可愛い女子に目がない和美はさすがに詳しい。 「中学同じで仲良しなんだと思うよ。タイプの違う美少女ふたりって感じで目立つの。そういえば、体育祭のときに一緒にいなかったかなあ?」 「佐伯先輩のせいですかね……」  和美と今日子が言い合うのを他の三人は黙って聞いていた。『三大巨頭』などと呼ばれていても、男女の機微に関しては女子の情報網に遠く及ばない。 「なんにしろ、明日には来てくれればいいけれど」  須藤恵さん。美登利のつぶやきに綾小路が無言で頷いた。   翌日の朝には雨は止んでいた。確実に昨日より気温が高くなっているのを感じる。  今朝は少しは早く起きれたはずなのに、余裕ぶっていたらいつもの時間になってしまっていた。絶対にもう、遅刻はしない。心に誓っていたから正人は全速力で学校に向かう。  河原沿いの道で、昨日の女子生徒を見つけた。とぼとぼと重い足取りで正人の前を歩いている。 「おい、あんた! 走らないと遅刻する!」 「え……」  ショートボブで目が大きく、背は小柄。ネクタイの色は同じ一年。それがわかって正人は思わずその手を掴む。
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