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Episode 03 長い一日
文化祭当日は申し分ない快晴で、生徒たちの日頃の行いの良さを天が証明してくれたようだった。
早朝からゲートや看板を設置する生徒たちの歓声を背に、文化部長澤村祐也は未だ建設途中の建物の概要を見上げていた。
「おはよう、澤村くん」
声だけでそれが誰か澤村にはわかる。
「みどちゃん」
おはよう、と振り返る。中央委員会委員長の中川美登利が隣に立った。
「芸術館、間に合わなかったね」
「うん……。でもほら、これはこれで目立っていいかも。なにができるんだろうってお客さんも看板を見てくれるでしょう。ここに生徒募集のポスターも貼ってあるし」
「そうだね。興味持ってもらえるよ、きっと」
澤村はくすりと笑って美登利の長い髪に指を伸ばした。
「髪の毛絡まってるよ」
「朝バタバタしちゃってさ。そういえばお母さんがうるさく言ってたなあ」
「少し時間あるなら結ってあげようか?」
「お願いしようかな」
澤村は嬉しそうに頷く。
「澤村くんの演奏、午後だよね? 絶対聴きに行くからね」
「ほんとう? それなら張り切らないと」
良い音が出せそうだと澤村祐也は微笑んだ。
いよいよ文化祭当日。今日は放送部の腕章を付けた船岡和美が開口一番に放ったセリフは「やばい」だった。
「やばい、やばいよ。大正レトロカフェ。百合香先輩の本気、半端ないよ」
「もう既に長蛇の列だろう。誘導員を増やしたほうが良さそうだな」
「ち、がああう!」
黒板に張り出された人員配置図を確認している綾小路に船岡和美は精一杯叫ぶ。
「そういうことじゃなくて! こう、キュンだよキュン。女給さんやばいよ。キュンキュンだよ」
「グラウンドの巡回係を二人ピロティーにまわすか」
「でもね。あたしが自分を許せないのはね、佐伯氏のギャルソン姿にときめいてしまったことなの……」
「坂野くん。連絡を頼む」
「了解です」
「ねえ、ねえ。坂野っちも見てごらんよ」
「いやですよ」
携帯電話を取り出しながら坂野今日子は冷たく言い放つ。
「目が腐ります」
ですよねーと和美は肩を竦めた。
「それでは船岡は突撃レポートに行ってまいります」
びしっとマイクを振り上げ和美は文化祭実行委員会本部を飛び出していく。
「あいつは今日一日あのテンションでもつのか?」
風紀委員長のぼやきに坂野今日子は「さぁ?」と首を傾げた。
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