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「なんだかもう、訳がわからない」
げっそりと池崎正人がつぶやく。
「まだ午前中だぞ」
こちらはまだまだ余裕がある様子で森村拓己が正人をたしなめる。
朝一番に寮生総出で叩き起こされ、普段より二時間早く登校させられた。
ゲートの設置やら、グラウンドのベンチとテントの配備、その後には校内の巡回と、正人はもはや疲れ果てていた。挙句の果てになぜか今、正人は背中に見知らぬ女の子を背負っている。
「迷子の女の子には優しくしなきゃ」
自分は身軽にしれっと言う拓己に突っ込む気力も正人にはない。
養護教諭が詰めている学院側本部に女の子を預け、軽くなった肩を回しながら正人はようやく一息ついた。
学院側本部テントのあるグラウンドでは、サッカー部の招待試合が行われている最中だった。観客席の左右に並んだ模擬店では、運動部の面々が弁当やお茶を売っている。
「昼飯どうする?」
携帯で実行委員会本部と連絡を取っていた拓己が正人を振り返った。
「手が空いたなら今のうちに昼休憩にしていいって」
「おれはここで弁当でいいけど」
というより、得体の知れない仮装をした生徒たちであふれかえっている校舎内では、とても気が休まらない。
「そうだね。天気もいいし。少し暑いけど。あ、でもさ、後でちょっと調理部のケーキ屋さんに行ってみようよ」
「ケーキ屋ぁ? なんで?」
「仲いいだろ? 須藤や小暮と」
仲良くした覚えはまったくない。生返事をしながら正人はさっそく弁当屋を物色し始めた。
「一ノ瀬はどこだ!?」
文化祭実行委員会本部に生徒会副会長の長倉が飛んできた。クラスの女子が差し入れてくれた鯛焼きを口にくわえたまま中川美登利が振り返る。
「一ノ瀬がいない!」
もぐもぐと鯛の頭を飲み込んでから美登利が問う。
「ケータイは?」
「応答なし」
「ということは、呼び出しの放送をしても無駄だよね。放っておけば? OBの対応くらい他の生徒会メンバーで……」
「そうもいかないぞ」
携帯で何か報告を受けていた綾小路が気難しい顔で見返った。
「西城へやった偵察隊の話では、高田がこっちに向かってるらしい」
「まじか!」
「阿呆なの、あいつは。なんでわざわざ出張ってくるのさ」
「うちが気になって仕方ないんだろうな」
しっぽを飲み込み、湯呑のお茶を飲みほしてから美登利は立ち上がった。
「見回りがてら探してくる。ここはよろしく」
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