40人が本棚に入れています
本棚に追加
廊下に出た美登利はまず、一番気になっていた三年生の大正レトロカフェの様子を見に学食のある一階へと下りていった。
学食前の廊下は込み合っていて、窓を隔てたピロティーにもつづら折りに順番を待つ人の列ができていた。
ピロティーを挟んで向かいの調理部のケーキ屋も、大正レトロカフェとは被らないメニュー展開が功を奏したらしく、まずまずの客の入りのようだった。
「盛況盛況」
ひとりほくそ笑み、美登利は「さて」と考える。誠を探すなら人気のない場所を巡らねばならない。
渡り廊下から戸外へ出ようとしたところで池崎正人と森村拓己に会った。
「美登利さん」
ふたりとも外にいたのか額が少し汗ばんでいる。
「見回りですか?」
「誠を探してるんだけど、どこかで見なかった?」
「グラウンドでは見かけませんでしたけど。捜すの手伝いますか?」
「いいよいいよ。まだ休憩中でしょう。今のうち見たいところへ行っておいで」
「あ、じゃあ。これどうぞ」
拓己がペットボトルの水を差し出す。
「ぼくら調理部に寄ってくんで」
「ありがとう」
ふたりと別れて校舎をぐるりと回る。ちょうど学食の裏になる位置。こちらに人がいる気配はなさそうだ。
引き返そうとすると、厨房の扉が開いて人が出てきた。ギャルソン姿の三年生、佐伯裕二だ。
無言で凝視する美登利にバツが悪そうな顔をして、佐伯が唇を曲げる。
「笑いたきゃ笑えば?」
「いえ、まあ……」
そう言われると笑いたくなってしまって美登利はさすがにそれをこらえる。
「似合ってますよ、とっても」
やっぱりバツが悪そうに佐伯ははーっと息を吐いてその場にしゃがみこんだ。自販機で買ったらしいコーヒーを取り出す。
「もしかしてお昼休憩ですか?」
「うん」
同じようにしゃがみながら美登利は持っていた袋を差し出した。
「それならこれどうぞ。道すがらいろいろもらったんで」
「……サンキュー」
フライドポテトやらタコ焼きやらワッフルやら。
「人気者は大変だな」
「人気者っていうのかな」
美登利は少し首を傾げる。
「じゃあ、恐怖の番長」
揶揄が混じった言い方に美登利は余裕の表情で微笑んだ。
「先輩は実は優秀なんだから、最後の一年くらいちゃんとしたらどうですか?」
「よけいなお世話だよ」
「ですよね。ところで、一ノ瀬誠を見ませんでしたか?」
美登利は立ち上がり、ついでという感じで尋ねてみる。
「北校舎の階段上がっていったぞ。あれ、何時頃だろうな……。図書館にいるんじゃないのか」
「え……」
思わぬ有力情報に素で反応してしまう。そんな美登利の様子に、こちらも珍しく素の表情で佐伯がぷっと吹き出した。
最初のコメントを投稿しよう!