40人が本棚に入れています
本棚に追加
「四年前になるのかな、巽さんと同級なはずだから」
「あー」
思わず美登利は頭に手をあてる。
「兄が西城で弟が青陵? 実家は山梨だよな、わざわざどうして」
「そんなことは知らないけれど」
「それもそうだな。他人の事情などここで話しても始まらない。俺は戻るぞ」
パソコンに向かっている今日子に声をかけてから綾小路は出ていった。
頭を抱えたまま黙り込んでいる美登利を誠が見る。
「なに考えてる?」
「私の悪い癖……」
「……」
文庫本に目を戻し、誠は小さく小さくつぶやいた。
「だから言いたくなかったんだよね」
誰にも聞こえないように。
翌日から、嘘のように池崎正人は遅刻をしなくなった。
「根性でどうにかなることだったんだなあ」
感嘆する拓己に舌打ちして正人はさっさと昇降口に向かう。
「帰るの? 暇なら手伝ってよ」
「やなこった」
学内は体育祭に向けフルスピードで慌しくなっていた。
「応援団の名簿できました!」
「広報委員会に持っていけ」
「プログラムの草案締め切ります」
「美術部に推敲させろ。備品のチェックは終わってるのか? 担当は?」
「綾の字ー!!」
中央委員会室で支持を飛ばす綾小路のもとに生徒会副会長の長倉が飛んできた。
「一ノ瀬がいない! どこに行った、あいつ」
「知るか」
言いつつ綾小路はそばにいた風紀委員の二人に捜索を手伝ってやるよう指示した。
「昼寝できそうな場所を重点的に捜せ」
「サンキュー」
少しほっとした様子で長倉が辺りを見渡す。
「中川がいないじゃないか」
「美登利さんならスカウトに行きました」
パソコンに向かったまま坂野今日子が淡々と応じる。
「超有望大型新人ですよ、わーい素敵」
棒読みに言いながら、キーボードを打つ指の速さがものスゴイ。
「坂野女史、なんか怒ってる?」
「美登利さんのお気に入りが増えちゃうからだよ」
ばしっと後ろから船岡和美が長倉の背中を叩く。
「やだなー。あたしも絶対いじめちゃう。その、池崎くん?」
「……どうでもいいから仕事をしてくれ」
「ほれ、放送部の進行表の草案」
ぼやく綾小路に和美はファイルを差し出した。
正門前の花壇の脇に、中川美登利が立っていた。正人を見つけて手招きする。
無視してやりたかったが無言の圧力がそれを許さない。
「遅刻ならしてないっすよ。あれから」
「うん。すごい、すごい。頑張ってるよね。だから今日は、いいものを見せてあげようと思って」
最初のコメントを投稿しよう!