Episode 01 池崎正人の受難

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Episode 01 池崎正人の受難

 春うららかな日差しの中、桜の花びらが舞い降りる。どこまでも広がる蒼穹の下、ひらひらと、ひたすらうららかに。  まさに入学式日和。で、あるのに、それなのに。 (なにやってんだろう。おれ)  無情に閉ざされた校門の前で、池崎正人は一瞬だけ途方に暮れる。  思案したのは一瞬。やはりこのまま逃げ出すわけにもいかない。  校門は登れそうになかったので、正人はぐるりと敷地の裏側へと進路を取った。  建物の脇に回ったところで、ここはというポイントを見つけた。こういうことに関して正人はとても鼻が利く。  塀をよじ登り身軽に飛び下りる。入学に合わせて母親が新調してくれた革靴の底がじんと痛み、正人はやれやれとため息をついた。 (ほんとに、おれ……) 「なにやってるの?」  まさに今、自分が思ったことを言葉にされて、正人はぎくりと声がしたほうを振り返る。 「なにしてるの? 君」  髪の長い女子生徒が立っていた。  とっさのことに言葉を詰まらせている正人を数秒眺めやり、彼女はくるりと踵を返してさらりと言った。 「池崎正人くんでしょ? ついてきて」  返事を待たずにすたすた歩きだす。  慌てて後を追いながら、正人は疑問を素直に口にした。 「なんでおれの名前……」 「新入生でまだ来ていないのは君だけだから」  体育館らしき建物と校舎の間の細い路地へと入り込んだところで、彼女はちらりと正人を振り返った。 「入学式に遅刻だなんて、いい度胸だね」 「ただの寝坊に度胸は関係ねえだろ」   条件反射でかみつき返してしまう。 「……」  彼女がすうっと、瞳を眇める。正人ははっとしたが時既に遅し。  どう見ても上級生を相手に、入学早々まずかっただろうか。いや、それ以上に。  この女子生徒からなんだかよくわからない威圧感のようなもの、を感じてしまい、正人は固まったままそのキツイ一瞥を真っ向から受け止めた。  ここで怯んだりできないところが正人の長所であり短所でもある。 「それもそうだね。失礼な言い方してごめんなさい」  予想に反してあっさりと、彼女の方が引いてくれた。体育館脇の路地をすたすたとすり抜けて行く。  どうやらそちらが正面側だったらしい。既に式が始まって閉ざされている玄関の脇で、数人の生徒が机や段ボール箱の片づけをしていた。
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