26人が本棚に入れています
本棚に追加
珪の傍らに立ち、今夜のメニューを覗き込む。用意されていたのは、大皿一つだった。そこに盛り付けられていく品々を確かめて、桜蔵は表情を輝かせた。
珪が、桜蔵を見下ろし、口角を上げた。
「乾杯するだろ?」
「当然!」
桜蔵は踵を返し、足取り軽く洗面所へ向かった。機嫌よく鼻歌を唄う合間に顔を洗って、今回の仕事の成果ににんまりと笑った。
「なにをニヤニヤしてんのぉ?」
開けっ放しだった扉から、珪が桜蔵を観察するように立っていた。
「あ、珪ちゃん」
鏡越しに目が合った。彼の手元に酒瓶二つを見つけ、桜蔵は手にしていたタオルを戻して振り返る。
「どっちで乾杯する?」
珪が、顔の高さに掲げた二つの酒瓶を、桜蔵は、交互に見つめた。
「右!!」
「だと思った」
ソファー前のローテーブルに、大皿に盛り付けられたおつまみと、珪が選んだ二つの酒と、うすい青色の緩く波打つグラスが並べば、乾杯の準備は万端だ。
「E‐idファイルの奪取成功に」
桜蔵が、グラスを掲げる。
「俺たちの才能に」
ニヤリと笑って、珪もグラスを掲げた。
「かんぱーい」
「かんぱーい」
グラスがカンと高い音を鳴らした。
桜蔵が、喉を鳴らして、一気にグラスを空けた。
最初のコメントを投稿しよう!