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 ひと口飲んでグラスを置いた珪は、軽く笑って、自作のつまみに箸をつけた。 「いくら嬉しいからって、あんまり飲みすぎんなよ?桜蔵」 「だって、おいしいんだもん。ねぇ、どんくらい集まったかなぁ」 「それは俺たちじゃわかんないだろ。あのデータを作ったやつじゃないと」 「……アキ」 「しんみりすんなよ。アキって決まったわけじゃないし、アキならなにかヒントを残してんじゃねーかな」  珪の元同僚で、二人の親友・(あき)――E‐idファイルを作った人間だ。そして、今、彼はいない。 「だよね。アキにつながるものかもしれないし」  桜蔵の顔に笑顔が戻る。 「さぁ、呑むか!」 「だぁから……」  気持ちいいくらいにきれいに飲み干していく桜蔵を、珪は半ば諦めたようにたしなめた。 「ピッチ、早いつーの」 「珪ちゃんのおつまみサイコぉ~」 「聞いてないし」  まだ酔うには早いはずなのに、桜蔵はケラケラと愉しげに笑っている。見ていると、こちらまで愉しくなってくる。  桜蔵は人を巻き込むのが上手い。そして、いつの間にか巻き込んだ当人より夢中になっている。その点では、人を見る目があると言っていいのだろう。 「珪ちゃん、あのデータってばらばらのまま?一つにならないの?」     
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