A

2/15
前へ
/89ページ
次へ
 この星から、“国”の存在がなくなった時のことは、桜蔵も珪も記憶していない。  しかし、桜蔵が、この名前になった時のことは、二人共に、よく覚えていた。  その日から、ずっと追っているものがある―――EYESROID(アイズロイド)。それは、大切な友人が残していった、宝物。どこかへ消えてしまった彼を辿るための、ヒント。  広くない家の中、今は、珪が、それと向き合っていた。正確には、それが入っているかもしれないものと。  空の色をした玄関扉を入り、左側中ほどに、複雑な機器を色々置いたラックが三つ並んでいる。 埋もれるようにして一緒に置かれたパソコンを見つめたまま、珪は、椅子に凭れた。灰色の瞳に濃い茶色の伸びかけのショートカット。サラサラでふわふわした髪質の、すらりとした背の高い男。加えていた煙草を、キーボード脇に置いてある灰皿に押し付けながら、ため息をつくようにして紫煙を吐き出した。 「終わった?」  ため息を聞いて、桜蔵がソファーから後ろを振り返った。灰色がかったターコイズのつぶらな瞳と濃い茶色の髪、端整な顔立ち。そして、本人も気にするほど桜蔵は小柄な体躯をしていた。     
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加