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 一階フロアの真ん中に、でんと置かれたソファー前には、楕円の形をした、つややかなローテーブルがあり、その向こうには、一人掛けのソファーが二つ並んでいる。半分吹き抜けになっている高い天井。そこで、二つの天井扇がゆるゆる回って、エアコンと一緒にこの室内の空気を心地よい温度に保っていた。 少し高い位置にある窓からの光は、そろそろおやつ時だと知らせてくれていた。 「……もーちょい」  応える声に、元気がない。  桜蔵は、ソファーから立ち上がり、珪がいるのとはちょうど反対側の小さなキッチンスペースに向かった。コーヒーを淹れるためだ。  少し前に、コーヒーメーカーにスイッチを入れてある。香ばしい匂いは、先ほどから届いていた。コーヒーにミルクを添えて、お菓子も付け足す。珪の好きな豆大福だ。  珪のここ最近の睡眠時間は、合計しても一桁だ。疲れも溜まっているだろう。  しかし、プログラムもデータも、PCに関するものは珪の方が専門だ。桜蔵が代わっても、彼の仕事を増やすだけ。黙って任せておいた方が早い。桜蔵ができるのは、作業がスムーズに進むように糖分とカフェインを差し入れることだ。  用意したソーサーは、桜蔵がデザインして作ったオリジナルで、お菓子とコーヒーカップが一緒に乗せられるタイプのものだ。作業台脇の、収納を兼ねたサイドテーブルに置いて、桜蔵もディスプレイを見つめた。     
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