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仕方がない―――珪は、楽しげに鼻歌を唄う相棒を見て思った。
あの瞳を見てしまったのだから。
珪は体をグッと伸ばし、そして、少々窮屈そうにゴロンと横になった。その途端、頭も体も瞼も急に重くなる。桜蔵が立ち上がるのを視界の端に映して、珪は目を閉じた。
桜蔵は、隣の一人掛けのソファーにかけてあったブランケットを、そっと、珪の体に掛けた。
「寝てないもんね、珪ちゃん」
ソファーに戻った桜蔵は、メンテナンスを終えた機器を専用のケースに片づけて、残ったコーヒーをゆっくり味わった。
室内は、途端に静寂に包まれた。天井扇の回る音すら聞こえそうなほどの静けさだ。
テーブルの端に置いておいた雑誌を取り、ソファーの背にだらりと凭れかかった。
「ねむ……」
数ページ捲ったところで、欠伸が出た。
捲っていくたびに、瞼は重くなっていく。まるで、向かいにいる珪から眠気のオーラが流れてきているようだ。
読んでいたのが、眺めるだけになり、もう一度欠伸が出た後は、もう目を開けていられなかった。
天井扇だけが、動きを止めることなく、ゆるゆるとまわり続けていた。
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