1:リュウ

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しかし、別に、男らしくしてきたわけではない。竜は父が大好きで、その背中を追っていたら女らしさから遠ざかっていただけだ。 「言ってろ……」  言い返す気にもなれない―――――竜は、人をダシにして、腹を抱えて笑う二人を置いて、奥へと進んだ。二人と遊ぶために、学校をさぼったわけじゃない。  社の脇を、更に奥へと進む。  この辺りは、もともと緑の多い土地だが、町中にあってなお、この神社の周囲は、うっそうと木々が茂っていた。風が吹き、夏でも、ほかの場所より不思議とさわやかだ。  社の奥へと進んでいくと、緑は、いっそう濃くなっていく。まるで、森に迷い込んだようだ。それまで見えていた景色が、ゆらりと変化したような感覚。  そして、それを自然と受け入れている自分に、竜は、この頃、疑問を感じていた。  向かう先に、小さな建物が見えてくる。表の社を、小さくしたような建物だ。その縁側で、物静かな雰囲気の青年が、読書をしていた。 「いらっしゃい」  本から顔も上げないで、青年は、竜を迎えた。 「どーも」  思わず足を止めてしまい、少々居心地が悪い。口から出た挨拶も、妙に他人行儀だ。  それ以上の言葉もなく、静かに彼の隣に座る。カバンを脇に置いて、ただ、そこから見える景色を眺めた。  青年が、本を置いて、アーモンド色の瞳で竜を見つめた。  縁側の端に、足を投げ出して座るこの青年は、樹李(じゅり)といい、先に会った海吏・海雷の師であり、兄である。自然の力を自由自在に使いこなすことができる彼は、竜にとっても、師であり、兄のように慕う存在だ。  そして、人ではない。自然の中に生きる精霊であり、この地を護る守護者だ。  彼は、竜の持つ秘密を知っている。 「どうした?」  静かな声音が、社裏に吹く風に交じって聞こえた。  いつもと様子が違う――――樹李は、早々に気づいていた。  竜は、眉間にしわを寄せた。何を聞いても、おそらく彼は受け止めてくれる。それをわかっていてもなお、問うには少しの勇気が必要だった。  自分が周りとは違うと、認めたくない事実を認める気がして。  それは、個性ではなく出自に関わることなのだと、本能が教えてくれている。 「うん……」 「何かあった?」 「俺、最初にここに来たのって、父さんに連れられて来たんだっけ?」 「そうそう。十年くらい前かなぁ?まだ、四つか五つだった。小さくってパワフルでさぁ、父親似だって思ったよ、心の底から。チビ杏須(アンス)だって」
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