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懐かしそうに話す樹李の口元には、笑みが浮かんでいた。
竜も楽しげに声を立てて笑った。
「兄ィは、あのころから今のまんまの兄ィだったよね」
樹李は、一見すると二十歳前後、海吏と海雷も十六、七歳ほどに見える。しかし、彼らの外見が、生きてきた年数と相応でないことは、竜も心得ていた。
「竜、もうすぐ夏休みだよな?」
「うん」
「夏休みはどうする?去年は、ここで剣と武術の稽古してたろ?」
「今年は、どうするかなぁ……」
「受験?」
「できれば、兄ちゃんと同じとこに行きたいんだ」
「授業サボっててよく言うよ」
樹李が小さく笑って、それにつられるように竜も笑った。
「それで?受験生が勉強しないで、どうかしたのか?思い出話がしたいんじゃないんだろ?」
「まぁね」
竜にしては、珍しく言いよどむ。それ自体が、胸の内に秘める問いを表していると、樹李は気づいていた。
「なんで俺には、こんな力……戦う力が、あるんだろうって……どうして、必要なんだろうって思ってさ」
周りでは誰一人、持っていない力。幼いころから自然と受け入れ、彼らによって、使いこなせるようになった武術と剣術、そして――――。
「魔術なんて、普通に生活してて使うことないのに……。何で父さんは、俺をここに連れてきて、戦えるようにしたのかな?」
樹李は、淋しげに笑って答えた。
「本人に、直接聞けたらいいのにな」
しかし、竜の父、杏須はもう生きてはいない。
それこそが、竜がここで稽古をする理由だった。
「父さんのすることだから、訳があるって思うんだけど、何でなのかなぁって思って。父さん、その辺のこと話してくれなかったし」
お茶の葉のいい匂いが、鼻腔をくすぐる。
振り向けば、海吏が盆に湯呑を四つ乗せてやってくるところだった。海雷が、斜め後ろからついて来ている。
「いつか必要なんでしょ。そう思っておけば?」
「ワケがあるってんなら、そのうちわかんだろ?」
お茶を出しながら言った海吏の言葉に、海雷が続く。
元も子もないような答えに呆れていると、隣から樹李の笑う声が聞こえてきた。
「兄ぃ?」
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