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訳が分からず、眉を顰めて彼を見やると、笑い顔をそのままに、こちらを振り向いた。
「二人の言うとおりだ。あの人は、必要だからここに連れてきた。必要だから、戦える力を身につけさせたんだよ。それでいいんじゃない?」
竜は、正面を向いて、考え込むように唸り声を上げた。
「つーかさぁ、戦わなきゃいけない中学生なんて、周り中探しても俺一人だ」
樹李と反対側に座った海吏・海雷の二人が、のんびりとお茶をすする。
「平和だねぇ、日本って」
「ホントになぁ~」
二人がいると、話をかき回される。真剣な話をしているのに、おかしな合いの手を挟むのだ。
「も~!邪魔すんなっ、お前ら!」
「え~?してないよ、邪魔なんて。ねェ、海雷?」
「俺たちは、正直に胸の内をさらしているだけだ」
ニヤける顔を隠そうともしない。人を苛立たせて楽しんでいる。
「わかった。言い方を変える。俺は、お前らのオモチャになりに来たんじゃねぇ。茶を出して用が済んだんなら、どっか行けよっ!」
「聞いたかよ、海吏?こいつ、いっちょ前に俺らをジャマ者扱いしてるぜ?」
「ありえないねェ?」
こちらが苛立てば苛立つほど、二人はキャッキャと声に出そうなくらいに喜んでいる。分かっていても、イライラしてしまう。
「まぁまぁ、竜。お茶でも飲んで少し落ち着いたらどうだ?」
少し困ったように笑って、樹李がなだめに入る。
竜は、眉間にしわを寄せたままで言われた通りにお茶をすすった。落ち着け、と心で念じながら。
海吏も海雷も、まったく動く気配はない。
「竜?」
穏やかな声音で、樹李が呼んだ。それがまるで、社を吹き渡る風のように心地よく体にしみ込み、竜の心は、それだけでふわりと柔らかになっていた。
樹李は、変わらず穏やかな声音で続けた。
「確かに、戦う必要のある奴は周りにいないかもしれないけど、稽古をしてるやつならいるだろう?」
「あ」
「見方を変えてごらん?それに、今までしてきたことは、何を鍛えるための稽古だったのか、考えてごらん?」
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