12人が本棚に入れています
本棚に追加
樹李の優しい声を聴きながら、竜は遠くを見つめた。
樹李は続ける。
「竜の中の疑問は、案外簡単に答えが見つかるものかもしれないよ?」
答えは、すぐに言葉にならなかった。
しかし、鳥居をくぐった時に抱いていた疑問は、ずいぶんとポジティブなものに変わっていた。幼いころから通っているこの場所と彼らと、そして、自分自身のことを、もっと知りたいと――――。
「それで?今日は、どうすんの?」
縁から投げ出していた足をぶらぶらさせて、海吏が、実に楽しげに聞いた。
「せっかく学校サボってきたんだし?」
海雷も、ニヤリと口の端を上げた。
「勝負、する?」
竜は、前を見据えたまま、口角を上げた。
「おう!」
そして、縁から立ち上がり、二人を体ごと振り返る。
「今日は勝つ!」
宣言する竜へ、樹李は、優しい眼差しを送った。
海吏と海雷は、彼女の挑戦的な瞳をまっすぐに見つめ返し、徐に立ち上がった。
「意気込みだけは、立派だな」
海雷が、竜を煽る。
「お前、今の勝敗わかってんの?」
「わかってるよッ。七十二敗四勝と、二引き分け!!」
意地になって言い返すほどの立派な勝敗ではないことは、竜自身よくわかっていた。
海雷は、それを見下すように鼻で笑い飛ばした。
「奇跡の四勝と、時間切れの二引き分けだろ?」
「でも、勝ちは勝ちだろ!兄ィが勝ちだって言ったんだから!お前だって負けてんだからな?!」
「よーし、そこまで言うなら、実力の差を思い知らせてやるよ」
見下すように笑う海雷に、一抹の不安を感じ、樹李が二人のやり取りに割って入った。
「ほどほどにしとけよ?ケガするぞ?竜だって弱いわけじゃないんだからな?」
「大丈夫だって。ただの稽古だろ?稽古」
「ホントだろうな?」
すっかりけん制し合っている二人を、心配そうに見つめる樹李は、小さくため息をついた。
海吏は、楽しげな笑みを浮かべて、樹李の隣に座り直した。
「これじゃあ、一回戦はVS海雷だね」
「煽るのが上手いからな、あいつは」
「計算なんだか、天然なんだか」
最初のコメントを投稿しよう!