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「まったくだ」
海雷と竜は、社から少し離れて向き合った。
「何の勝負にするんだ?剣か?武術か?」
「魔術!」
力強く宣言した言葉に、海雷は、呆れたように息をついた。
二人を縁側から見守る海吏は、信じられないと言いたげに首を横に振る。
竜が、ここで稽古をし始めたのは、四、五歳のころだ。武術を手始めに、剣術も教わり、今では魔術も少しなら扱えるようになった。
しかし、竜が魔術を教わったのは、今年の桜が咲き始めるころ。やっと、戦う手段として使えるか、というレベルだ。
それに引き替え、海雷は、この世界に生まれついてからずっと魔術と付き合ってきた。当たり前のように扱うことができる。
「七十三勝目、決定だな」
海雷が、そう言ってまた竜を見下し、鼻で笑い飛ばした。
「また煽ってる……」
呆れたように、海吏が独りごちた。
しかし、竜が返したのは、冷静で強気な笑みだった。
「その単純な思考が命取りなんだよ、海雷。悪いけど、今日は俺が勝つ!」
「単純……。何からくる自信だ、それ」
海雷の顔に浮かぶ、僅かな苛立ちを見て、竜はにやりと笑った。
「魔術は、頭使うからな。海雷になら勝てる!」
「なっ!?お前より馬鹿だって言いてぇのか?!」
頭にきた海雷は、竜より先に身構えた。
「今のセリフ、絶対取り消させてやる!」
最初は、魔術に関して素人同然の竜相手に本気もないと思っていた。稽古をつけてやろう程度だったのだ。
しかし、今のセリフを聞いては、思い切り負かせてやらなければ気が済まない。
同じように身構える竜もまた、当然勝つ気で海雷を見据えていた。
「はい、始め」
樹李が、穏やかに開始を合図した。
同時に二人が、力を放つ。
海雷が放ったのは、得意の水の力。水を、無数の矢のように変化させて竜を狙う。
竜が放ったのは、地の力。砂の壁が、海雷の攻撃を防いでいた。
縁側から見ていた海吏は、賞賛の口笛をヒュッと鳴らした。
「言うだけはあるね。ちゃんと考えてんじゃん」
「まぁた、あいつは言霊を省く……」
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