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樹李は、渋い顔をして竜を見やった。
二人の視線の先で、竜の作った土の壁が崩れていく。
海雷は、隙を作ることなく、氷の矢を竜へ向けて放った。
それを術ではなく、横へと飛び退けて防いだ竜は、お返しとばかりに炎の矢を海雷ヘ放った。
海雷が、右手を横へ薙ぎ、目の前に水の壁を作り出す。竜の放った炎の矢はすべてそこへぶつかり、激しい水蒸気を上げて消えた。
二人の間に広がる水蒸気が、互いの姿を隠す。
涼やかな風が、それを消し去るより早く、二人はほぼ同時に力を放った。
二人の言霊が響く。
「カリエンティ・ブラスト!!」
「カリエンティ・ブラスト!!」
オレンジ色をした熱風が、互いへと牙をむいて襲い掛かる。二つの力は、海雷、竜の立つちょうど中間でぶつかった。力は、はじけて消えることもなく、そこで押し合っている。
竜も海雷も、顔にも体にも力が入っていた。
力の押し合いは、ほぼ互角。海雷は、この事実に焦りを感じていた。元々、力を使える存在だとはいえ、竜は、まだ初心者だ。思うように力が引き出せるはずがない。なのに今、その力は互角なのだ。気を抜くと、隙を突かれてしまう。
広がっていた水蒸気もすっかり消え、互いの姿がよく見えた。
視線の先、竜が、強気にニヤリと口角を上げた。
海雷が眉を顰めていると、竜の熱風の渦が、僅かに弱まった。
「(何する気だ……?)」
竜の動きに目を凝らせば、彼女は右の拳に、青白い風を纏わせてグッと後ろへ引き、体を斜めに構えた。
竜の放ち続けている熱風は弱まったとはいえ、押し切れるほどではない。僅かに弱め、一定の力で留めていた。それに加え、まだ攻撃しようとしている。
「(ウソだろ?どんだけ容量あんだよ、コイツ)」
海雷は、頭脳をフル回転させて打つ手を考えていた。
いくら竜に魔術のセンスと容量があったとしても、まだまだ初心者。二つの術を同時に、しかも完璧に扱うことなどできないはずだ。力は、どちらかに偏るだろう。それなら、竜が攻撃する瞬間が、こちらにとってもチャンスとなる。
海雷は、注意深く竜の動きを見つめ、その瞬間を待った。
しかし、チャンスが訪れたのは、竜が攻撃を仕掛けるより早かった。
こちらに視線をやっていた竜が、ハッとした表情で、辺りを見回した。同時に、一気に弱まる竜の力。
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