第三話 からだとこころ

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「進路の相談とかしなくちゃならないでしょ」 「ああ、そうか。まだ考えたくないけど」 「そうも言ってられないよ」  言いながら美登利は次の獲物を探して向こうに行ってしまう。  進路か、まだきちんと考えたことはない。大事なことなんだよな、と思う。今度は誠のそばで地面を掘りながら何か話している美登利の背中を見ながら思い出してみる。  あんなにいつも一緒にいた一ノ瀬誠だって受験のために彼女のそばを離れてしまった。今だってそう、簡単に会える距離とはいえ離れてしまっている。自分もそうなるのかと思ったらぞわりとした。  誠はいい、恋人という絶対的な立場にいる。でも自分は、離れたらそれで終わり、そんな気がして。彼女は簡単にお別れを言う、そんな気がして。 (離れたくない)  そのためにできる何かを考えなくてはならない。そのときはじめて気がついた。自分には、時間がないのだということを。 「なんだかお払い箱になった気分」  仕事を手伝おうとして拒絶され、拗ねた美登利が淳史の部屋でふて寝している。 「今まで散々頑張ってもらったからさ、大学生になったことだし自由にやってほしいと思ってるんだよ」  淳史が笑って従妹に取りなす。 「そうは言ってもさ」  ゴロゴロと部屋の端まで転がって美登利は板間の天井を見上げた。 「暇が苦手なんだよ、私はさ」  やることがないと、ろくでもないことばかり考え始めてしまう。 「今度から親戚として遊びに来ればいいさ。みどちゃんの部屋はそのままにしてあるし、錦小路のお嬢様だってまた来るかもだろ」 「そうだね……」  囁いたとき縁側の方から誠の声がした。 「いるか?」  ずりずりと這いずっていって障子を開ける。 「なにやってるんだ?」  ぐしゃぐしゃの髪を見て呆れた顔をされた。 「なんにも。宮前は?」 「森村くんたちと夜釣りに行くって、急いでメシ食ってる」 「大丈夫なの?」  誠は笑って空を指差す。濡れ縁に身を乗り出して見上げてみる。もう日が長いから辺りはまだ薄暗い程度だ。それでも半月と満月の間の月がもう輝きだしている。
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