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「雲もないし今夜は明るそうだね」
よいしょと座り直して美登利は髪をてぐしで撫でる。
「うちらもご飯食べてお散歩行こうか」
林の道は懐中電灯を使わなくても明るい。木立の影が差しているのを見て改めて頭上を見上げる。
「月明りで影ができるって知ったときはびっくりしたな。お月様の光ってすごいって」
「これだって太陽の光だからな」
「太陽がすごいのか。でも見上げちゃうのはお月様だよね」
「そうだなぁ」
「お月様が欲しいってよく聞くけど、太陽を欲しがる子がいないのはなぜ?」
「うーん」
「ポケットに入らないからかな? 海辺の貝殻とびちびち跳ねる魚の違い、みたいな」
「ちょっと意味が解らない」
こんな無意味な会話も久しぶり。
神社の境内も月明りで明るかった。街灯の光が呑まれるほどに。
遊具の方へ行くと波間がきらきら光る海が一望できる。水平線に向かって光の道が差している。
「宮前たち大丈夫かな」
「地元の子らが一緒なんだ。平気だよ」
「……そうだね」
美登利が座るとブランコがきしんだ音を立てた。
「明日、帰る前に磯遊びしに……」
シャラっと耳元で音がして美登利は言葉を止める。振り返る間もなく目の前にそれが現れる。
「プレゼント」
スワロフスキーの小さなトップの付いたネックレス。
「……」
プレゼントってなんの? 問い詰めそうになって堪える。声が低くならないよう気をつけながら小さく言った。
「ありがとう」
首元に鎖の感触。そうだよね、自分は信用されてないから。悲しくはない、自分にだってわからないのだから。
髪が邪魔なことに気づいて手で束ねて上にあげた。留め金を止めて、誠が訊いてくる。
「また伸ばすのか?」
「どうしようかな」
今は中途半端な長さの髪をそのまま横に流しながら考えていたら、うなじに彼の唇を感じて体が固まる。ちょっと待て。これまで散々、時と場所には気を配ってきたのに何を急に壊れているのか。
思ったけれど彼女にも放っておいた後ろめたさがあるから弱気になってしまう。まあ、これくらいなら。
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