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逆に顎を掴んで舐められた。初めての感触に鳥肌が立つ。身をよじったところを押し倒された。
またくちびるを舌先でなぞられる。変な声が出てしまって自分でも驚く。まだ触られてないのに感じていることを知られたくなくてそっと膝を立てる。いつもと違うことがこんなに恥ずかしくて気持ちいい。
怒っているんだ。手がわざとのように体をかすめて内ももを何度も撫でる。意地悪な手つきだ。もう彼が何を怒っているのか彼女にはわからない。身に覚えがありすぎて。
琢磨や宮前だったらどこまでなら許されるかがはっきりわかる。だけど彼はどこで、何に怒るのかが曖昧で怖い。ずっと一緒にいるのにわからない。
彼女にとっていちばんわからないのが自分のことなら、次にわからないのが彼だ。わかっているのは、どうせ自分が悪いのだろうということ。
考え事をしていたのがバレたのか噛みつくようにくちびるを吸われた。
怒らないで、怒らないでよ。宥めるようにキスに応える。襟足を優しく撫でる。
やがてお詫びのように背中を両手で撫でられて彼女はほっとする。彼の頭に頬を寄せて抱きしめる。大好きだからね。もうずっとこのままでいい。
そう思ったのもつかの間、再び愛撫が始まり今度こそ意識を切らさず集中する。肩にしがみついたまま吐息をもらす。首筋に唇を感じて震えが走る。
少し迷った後、思い切って耳元で言ってみた。
「背中にキスして」
「うん」
横たわった首筋から背筋にそって丁寧にキスが下りてくると、ゾクゾクして体が波打つ。気持ちいい。
こうされると彼女はたまらない気持ちになる。指がなめらかに滑る感じに自分がどういう状態かがよくわかって、恥ずかしいのに体が悶えてそんなこともどうでもよくなる。どこから自分の声がしてどうなっているかもわからない。
しめやかな光の中に彼の顔。
「泣いてる?」
「……好きだから」
嘘じゃない。大好き、大好き。体がこんなに感じているから。
背中に手を回して力いっぱい抱きしめる。すすり泣きを快楽の揺らぎに替えて。その奥底を這いずるものに彼女はまだ気づかない。
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