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連れ立って出ていく美登利と正人を見送って、宮前はふうと首を撫でる。
「坂野女史、本気であいつらまとめる気なわけ?」
「私はいつでも本気です」
「いやいやいや」
美登利と一ノ瀬誠の両方の幼馴染であり、なおかつ誠の恐ろしさを嫌というほど知っている宮前は首がちりちりして仕方ない。
「皆さんは知らない振りしてればいいのですよ。最後は本人たちの問題なのですから」
厳かにのたまう今日子の両サイドで和美と宮前は重く息を吐き出した。
「入学式は?」
「明後日。あすは寮の受け入れ準備があるからしばらく忙しい」
「大変だね」
「他人事だな」
「だって、もう他人事だもの」
美登利は小さく微笑む。こういうところは本当に冷たい。
「本屋の隣の雑貨屋さん行っていい?」
「うん」
なんでもいい、こうして一緒にいられるのだから。
雑貨屋にあった帽子をいくつか試してみて、美登利はごくごく無難なベージュ色のつばの大きな帽子を選んだ。会計をして外に出る。
「ついでにケーキを食べに行きたいな」
「いいよ」
甘いもの好きな彼女はにこりと嬉しそうにする。いくらだって彼女と一緒にいたいのだから、こんなふうにいちいち訊かなくても、と正人は思ってしまう。
オーダーをして待ってる間、美登利は袋から帽子を取り出した。正人の前で被って見せる。
「どう?」
「うん。見えない」
「こっちからも視界が悪いな。慣れればいいけど」
小さな顔がすっぽりと鼻の上まで隠れて、下から覗き込みでもしない限り彼女の印象的な瞳は見えないようだけど、それはそれで今度は形のいいくちびるばかりに目が行ってしまう。
キスしたいな。思った途端美登利が帽子の下から瞳を覗かせたので正人はぎくりとする。なんとも言えない顏になって彼女は小さな声で言う。
「顔に書いてあるよ」
「……ッ」
思わず自分の顔を撫でる正人に美登利は吹き出す。
「え、今の引っかけ?」
「そうじゃないけど」
帽子を取ってテーブルに肘をつき、彼女はそっと正人に向かって指を伸ばしてくる。唇の端に触れて囁いた。
「ごめんね」
どうしてそんなこと言うの。あんなに自分を突き放したくせに。こうやって傷つけようとしているの。
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