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第二話 悪魔の鏡
「おし、十分休憩のアナウンス入れてくれ。森村、部活紹介の担当者は?」
「もう待機してるよ」
片瀬修一が指示するのに森村拓己がてきぱき応えている。なんとも心強いコンビだ。感心しながら池崎正人は舞台脇の暗がりであくびをかみ殺す。パシッと丸めた進行表で殴られた。
「池崎、誘導」
「はいはい」
生徒会入会式終了のアナウンスを受けて新入生の多くが腰を上げて体を伸ばしたりしている。
正人は進行表で部活紹介の順番を確認しながら、校舎側の体育館の脇の扉を開ける。
「遅いぞ、まだか」
「もう始まる。順番に並んで五人ずつ舞台脇に待機してくれ」
「へいへい」
「実演組は壁沿いに待機。入れ替わりはなるべくすみやかに、と」
進行表をそのまま読み上げる正人に苦笑しながら皆が動いてくれる。部長クラスの者ばかりだから皆同級生だ。そう、正人たちは三年生になってしまった。
委員会や部活を引き継いで半年が経つとはいえ最上級生の重みは格別だ。正人だってそれなりに気は引き締めている。あの人に胸を張って報告できる働きをしなくちゃいけない。
こぶしを握り締めていると脇でふんと鼻で笑われた。
「あ、担当?」
「一応部長ですから」
調理部の小暮綾香が肩をそびやかして正人の前を通りすぎていく。
「怖えな、元カノ」
続く男子がきししと笑いを残していく。
以前、一年ほど付き合った小暮綾香とはすっかりこんな感じだ。付き合う前のクールな言動に綾香が戻ったとき、正人は安心もしたし申し訳なくもなった。
付き合っていた頃はそれなりに楽しかったし、素直に向けられる好意が嬉しくもあった。だけど正人だけでなく綾香も無理をしていたのだとわかって、あの時間はなんだったのかと考えずにいられなかった。もちろん無駄ではなかったと思いたいけれど。
つらつら思い悩んでいたら、首筋に感じるものがあって正人はあたりを見渡す。視線を感じたのだが気のせいか。
「池崎、進行」
「ああ」
正人は慌てて意識を切り替えた。
落ち着く間もなく体育祭の準備が始まり、毎年のことだがこの時期は猛烈に忙しい。
「なんか目玉になる競技ないかなあ」
「去年の合戦おもしろかったよね」
「ありゃ、あれだけ動ける人たちがいたからだろ。安西先輩とかまずありえねえ」
「池崎と平山でなんとかならんかね」
「ならんならん」
体育部会との連絡で走り回っているとまた視線を感じた。
「?」
なんなのだ一体。だが考えている間もない。まあいいや、と放置した。
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