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「連休は帰ってくるんだろ。神経使って今が一番疲れてるときだぜ、優しくしてやれよ」
「村上さんが言うセリフでもないよね」
本人が聞いたら深く静かに怒り狂うに違いない。そこで美登利は気がつく。こっちもばたばたしていてあっという間の一か月、まったく連絡していない。
(やばい……)
その夜、自室のベッドの上に正座して美登利は覚悟を決める。向こうが何か言ってくるまで気づかなかった振りをするのも手だが、さすがに達彦の言葉が引っかかった。
えい、と発信ボタンを押す。コール五回で相手が出た。
「やあやあ、誠くん、元気かな?」
『おまえは元気そうだな』
「ええ、まあ、おかげさまで」
『楽しそうだな』
「……怒らないで」
『怒ってない』
「連休帰ってくる?」
『日にちは決めてないけど。タケノコ堀は後半に一泊だろ。仁に聞いた』
ため息交じりに誠は言う。
『仁と付き合ってる気分だよ』
「ねえ、あいつ案外マメだしね」
『……』
「怒らないでったら」
約束だったから午後になってから懐かしの学校に出かけた。久しぶりに入るそこはやっぱりよそよそしくて自分は部外者なのだと思い知る。だから本当は来たくはなかったけど。
帽子で顔を隠し、園芸部の苗木の影から競技中のグラウンドを窺っていると、
「中川さん、何をこそこそしてるんですか?」
小暮綾香が眉をひそめて美登利を見下ろしていた。
「よくわかったね」
「そりゃ、わかります。またなんの遊びを始めたんですか? 堂々と来ればいいじゃないですか」
「やー、だって、池崎くんが言うから来ただけで、やっぱりここはこっそり見守ろうというか」
「彼女でもないですしね」
「言うようになったね、小暮さん」
「おかげさまで」
その間にも最後の競技スウェーデンリレーが始まった。正人は白組のアンカーだ。
「安西もいないし余裕だねえ」
「それはもう。午前の競技もぶっちぎりでした」
「今まであの規格外の男に食らいついてきたんだから、そりゃ成長もしてるか」
アンカーにバトンが渡ると歓声があがった。
「なんか黄色い声あがってない?」
「そりゃあ、普通にかっこいいですもん」
頬を染めて綾香が言う。にやにやしていたら睨まれた。正人がゴールテープを切ったのを見届けて、ぷいっと綾香は行ってしまう。皆に囲まれて正人は嬉しそうにしている。
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