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「言ってやればいいじゃない。彼は断ってるんだしこれ以上付きまとうなって」
「そりゃ言いたいですけど……」
「彼女でもないし?」
ニヤリと言われて綾香は鼻を鳴らす。本当にこの人性格が悪い。
「いいじゃん、元カノとして堂々と対抗してやれば」
「そう言われても」
「キスしたんでしょ?」
「は!?」
「自分で言ってたじゃない」
「……嘘」
「言ってた言ってた」
頭を抱える綾香を美登利はおもしろそうに見る。
「既成事実は大事だよ。それでしゃにむになってたでしょう」
「……」
過去の自分が恥ずかしい。だけど美登利はそれを武器にしろと言う。
「自分は彼の元カノで深い仲だった。だから言わせてもらうって堂々と押えつけてやればいいんだよ」
「中川さんだったら、そうしますか」
「いいや。私はそういうのはめんどくさい」
「あのですね」
「ところでさ。その一年女子なんて名前? 言動がなんか知ってる人っぽい」
「岩下すみれ、です」
「ああ、納得」
美登利は視線を横に流して口元を歪める。
「その子、岩下先輩の妹だよ。岩下百合香先輩っていたでしょう」
「ああ、はい」
「性格似たり寄ったりでさ、百合香先輩は聡明な分取引もできたけど、妹の方はちょっと馬鹿だから話が通じない」
「はあ」
「ここでぺしゃんこにしといた方が今後の為だよ」
俄かに剣呑みを帯びる美登利の瞳に、綾香はごくりとつばを呑む。かつて学校を支配した三大巨頭の迫力は今も健在だった。
「池崎先輩、聞いてるのですか? わたくしがお付き合いしてあげましょうと言ってるんですよ」
「頼んでねーし」
「先輩はシャイなようなのでわたくしから言ってさしあげてるのですよ。感謝してもらわなくては」
もうどうしろというのか。拒んでも振り切ってもこの一年女子は毎日毎日追いかけてくる。「もうやめてくれ」と頭を振り回して叫びたい気分。
「付き合っちゃえばいいんじゃない? そしたら満足して離れてくかも。佐伯先輩方式だよ」
しらーっと言う森村拓己に正人は唇を噛む。正人が美登利を好きなのを知っているからこそ、こんなことを言うのだ、この性悪仮面優等生は。それになにより、気持ちもないのに付き合うなんていう過ちは二度とおかしたくない。一緒にいたいのはあの人だけ。
「もう一度ガツンと言う」
心に決めて実行するものの岩下すみれはへこたれない。見上げた根性だ。
「池崎先輩、聞いてるのですか?」
不毛なやり取りを繰り返していると、岩下すみれの前に小暮綾香が仁王立ちで立ちはだかった。
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