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「おまえらは何かとあの子を責めすぎなんだよ。自分勝手なのも我儘なのも、女はみんなそうだろう」
そう言う達彦も彼女を責めたことがあった。だから反省してるのだ。
「優しい子だよ。ただ情が深いだけだ」
「そんなら元通りっすよね」
「そうさなあ……」
それではつまらない気もするが。思っていたら琢磨に睨まれた。無言で肩をすくめる。
「それにしても本人わかっちゃいるだろうが、案外やることが青いな」
敵にするまでもない、やはり一番の障害は巽か。そこでふと引っかかった。
「おい。その相手ってのは普通の女なんだろ?」
「じゃないっすか。俺にはへのへのもへじにしか見えなかったっす。服装も中川とは全く逆で。ああいう可愛いのが本当は好きなんじゃって」
「まさかまさか」
「ですよねー」
(まさかね)
だけど考えにくい。達彦だって最近では人並みな女には食指が動かしにくいというのに、より濃厚に彼女の毒に漬かり切っている男がそんな平々凡々な女にその気になったりするのか? いくら怒っていたからといって。
(裏で悪魔が糸を引いていたとしたら)
納得もできる。
翌朝、河原で犬の散歩をしている美登利を見つけてゆっくり近づく。
「お仕事はお休み?」
「まあね」
髪をショートにしてむき出しになったうなじがこの季節ではまだ寒々しい。こちらにしてみれば眼福ではあるが。遠慮なく眺めていたら美登利は無言でターコイズブルーのショールを取り出して首に巻いた。
「随分おもしろいことになってるね」
「ねえ、因果応報っていうのかな」
「直接糸を引いてたんなら因果とは言わないよね」
「……」
「池崎から少しでも目を逸らせたかった?」
「ははは。私はそんなに献身的じゃあないよ」
いっそ明るく美登利は笑う。
「絶妙なネタが転がってきたから、いたずらを思いついちゃっただけ」
「いたずらね。思った通りの結果だった?」
「なんとも中途半端だよねえ」
これっばかりは本心のように美登利はため息をつく。
「見くびっちゃいかんだろ。最盛期のグレタ・ガルボでも連れてこないとな」
「そんな御大層なものかな」
「……なんで残念そうなの?」
「そんなこと」
「お払い箱にしたかった?」
「そんなことない」
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