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「・・・・・・」
俺は躊躇いながらも、汀に封筒を渡す。
汀はその中の写真たちを見て、唇を噛み締めた。
「・・・兄をボロボロにしたのは、あなただったんですね」
「・・・・・・」
「あの日、帰ってきた兄を見たときも・・・そして今も。あなたのことが憎い。できることなら殴りたい。けど・・・」
「けど?」
「兄が、それを望んではいない」
どういう、意味だ?
俺が殴られたら、あいつは清々すると思うけど。
兄として、弟の手を汚させたくないだろうという意味か?
「意味がわかんね――」
「汀?」
言い返そうとしたら、家から瀬戸が出てきた。
「・・・・・・っっ」
俺の顔を見て、身体をこわばらせる。
「兄さん、どこへ行く気?」
「・・・バ、バイトへ。これ以上休んでクビになったら、困るから」
「まだ熱だってあるんでしょ?休みなよ」
「だけど来月はいろいろとお金がかかっ――」
瀬戸はようやく、汀が写真を手にしていることに気づく。
徐々に顔色が青ざめていった。
当然の反応だ。
弟が、自分の乱れた写真を見ているのだから。
「・・・・・・た、ちばな・・・っ」
震えながら、かすれた声で俺を呼ぶ瀬戸。
違う。見せるつもりはなかった。
そう言ってもきっと、言い訳にしかならない。
ならば俺は、鬼畜に成り下がるしかない。
「事実だろ。それ」
「っ!」
「汀!」
我慢ができずに、俺に殴りかかってきた汀を、
瀬戸は身体を張って止める。
胸がドクドクと痛む。
けど、その痛みに気づかない振りをして、俺は言い放つ。
「その写真を見て思い出してくれよ。俺に抱かれて気持ちよさそうに喘いでいたことをさ」
「兄さん、放して!」
「ダメだ、汀」
暴れる汀を一生懸命押さえる瀬戸。
なぜだ?
なぜ瀬戸はそこまでする?
殴られても、いや、殺されても当然のことを、俺はしているのに。
わけがわからなくて、俺はその場から逃げることにした。
鬼畜な上に、卑怯者だ。
二人に背を向け、捨て台詞を吐く。
「明日から、ちゃんと学校へ来い。周りの話題がお前のことばかりで、気に入らない」
「・・・・・・」
「来ないなら、今度は学校中にそれ、見せるから」
ちゃんと釘を刺してから、歩き出した。
澱がたまっていくのを感じながら。
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