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取り敢えず朝食をとることになった二人はキッチンにいた。
桜は食器棚からコーヒーカップを出すのに苦戦していた。
(もうっ無駄に高い食器棚のしかも微妙に高い位置にカップが。意図的にか、このっ)
やっと指先がカップを捕えたと思った刹那、指からするりとそれが滑り落ちる。
「きゃっ!」
「危ねぇ!」
条件反射で目をぎゅっと瞑る。
ガシャン――
恐る恐る目を開けると目の前には桐島の首筋があった。カップを割ったからなのか彼に抱き締められているからなのか分からないドキドキが体中を支配している。全身が一気に熱を帯びる。
「あ…」
「…バカ」
「あ、ごめんなさい。カップが」
足元で無残に壊れたカップを見下ろす。
「そんなこと言ってるんじゃねぇよ。ケガしたらどーすんだ」
怒ってはいるが口調はいたって優しく、少し桜の体を離して見つめる。なぜかその視線を逸らすことができずお互いが見つめあったまま動けない。
先に動いたのは桐島だった。
ゆっくり近づく桐島の顔。
そのまま重なる二人の唇。
ふわりと一瞬だけ重なった瞬間、桐島の微かな香水が鼻を擽った。
「……」
「真っ赤だな」
また騒がしく脈打つ体。まるで全身が心臓のようだ。
「う、うるさい…」
「上司にうるさいなんて生意気言う奴は、死刑だ」
「え?…んんッ」
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