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アパートの名が書いてある。
「若草荘」壱号室。
今住んでるアパートじゃないか。
この当時の新聞にはプライバシーという概念ないのだろう。
壱号室まで書いてある。
あの夢…。
霊の仕業と言うのか?
僕は元来霊とかいう怪奇現象を全く信じていない。
そのせいかここに至っても、単なる偶然と思ってしまう。
このアパートは元々、暗渠の上に家が建っている。
玉川の上に蓋をして、その下を川が流れているのだ。
僕は真下を流れる暗渠に入ってみたくなった。
神田川に合流する場所から暗渠に入ることが可能だった。
とは言え立ち入り禁止の看板。
それを越え、僕は暗渠を先に進んだ。
GPSを使うことで大体の位置を把握できた。
そして僕はアパートの真下付近にたどり着いた。
川は干上がっていたが、水は少し流れていた。
暗闇以外に、他は何もない。
懐中電灯で照らしながら、僕はスコップで穴を掘ってみた。
表面の砂地は上流から流れてきた砂なのだろう。
その下に石ころ。
さらにその下を僕は掘り進めた。
何があるか分からない。
何もないかもしれない。
でも僕は彫り続けた。
と、スコップが固いものに当たる。
大きな石だろうか。
僕は周辺から掘り返してみた。
「うん、骨だ」
変色しているが、それが骨だとすぐに理解した。
人間の骨。
やっぱりここに骨が埋められている。
なぜだろうと思う。
あの時、骨を見ても驚きもせず、出てきた骨がすぐに犬とか猫とかじゃなく、人間のものだと理解した。
悪夢のせいだろうか。
今にして思うと、何かに導かれていたとしか思えない。
「遺跡発掘のようだ」
骨が二体抱き合うように寝かされていた。
それは骨格の違いから男と女の骨だと悟った。
これは心中した二人の骨か?
僕は暗渠を出てから警察に行かず、図書館に行くことにした。
どうしても調べたいことがあったからだ。
警察に連絡するのはそれからでもいい。
今まで七十年近く見つからなかったのだ。
一日や二日遅れても問題はないだろう。
この暗渠は月に何度か、清掃員が入り、上流から流れてくるごみを処理するらしい。
万が一のため彼らに発見され、疑われないように僕は骨を埋め戻した。
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