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あの心中の記事だ。
死体は心中した二人のものに間違いないだろう。
七十年ぶりに僕が掘り起こしたのか。
新聞を見つけ、記事を読み返す。
心中事件の首謀者は橘博司。
女は日野菊。
橘は秋田の酒蔵の一人息子で…。
僕は図書館のパソコンで、秋田の酒蔵を調べてみた。
今もその酒蔵は続いている。
橘幸平。
今の当主だ。
今はインターネット社会のせいか、いろんなことが簡単に調べられる。
酒蔵について調べてみれば、橘家の生い立ちがある程度読み解ける。
酒蔵は江戸時代から続いている。
先祖を辿る家系図。
その中に博司を探す。
橘博司は昭和六十一年まで生きていた。
一体どういうことだろう。
確か、心中したのは博司ではなかったのか?
博司は一人息子で、他に子供はいない。
心中で死んだはずの人間が、なぜ生きているのか。
博司のテレビ取材の映像も残っている。
ごくごく平凡なお金持ちのお年寄りである。
博司の父豪太は県会議員も務めているというから、秋田周辺では名士であったに違いない。
橘博司の東京での経歴だけはっきりとしない。
博司の経歴は酒蔵に勤めて以降のものしか出てこない。
僕は素人なりに、橘博司の東京での足跡を追ってみた。
「心中事件について調べてるんですが」と言っても、昔過ぎてその頃を知るお年寄りにさえあえない。
僕は一体何のためにこんなことをしてるのだろうと、迷い始めると夢に蛆が現れる。
なんなんだ、この蛆は。
誰かの呪いか。
じゃあ他を当たってくれよ。
僕は少しノイローゼ気味になっていた。
そんな中、僕の噂を聞き付けた老人が、連絡をくれた。
図書館員の紹介だ。
僕は老人の家を訪ねた。
僕の唯一の手掛かり。
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