第2章 昆虫博士の悲しい恋

1/1
前へ
/8ページ
次へ

第2章 昆虫博士の悲しい恋

 化学教師の高柴は仁科不由美の突然の死に嘆いた。高柴は密かに不由美を愛していた。  ゲージのナカで蠢くサソリを見つめていた。この学校に20年もいる長老だ。  腹にクシでつけたみたいな傷があるが、この幅が大きいのがオスだ。このサソリ、ケンジは幅が狭い…………つまりメスなのだ。メスの方が体型がガッシリしている。オスのサソリを入れると求愛のダンスを踊る。互いにハサミを合わせている。  ダイオウサソリを高柴は探していた。  不知火学園のなかにいるって噂だ。アフリカ大陸に分布するサソリだが、学園に棲む魔術師によって召喚された。サイズは30センチだ。ドデカイハサミで獲物を叩き潰す動画を見たことがある。  不由美が言っていたな?  英国情報部を築いたナントカって男はゲイで、男も愛せるスパイを好んでスカウトしたらしい。  そーいや中尾孝太郎って臨時教師が最近、姿を消したがスパイだったのかな?  中尾は何度も高柴をデートに誘ってきた。  もちろん、断ったが?    翌朝、中尾の黒焦げ死体が不知火公園近くにある雑居ビルで見つかった。  「火災現場からは加速剤が抽出されたそうよ?」  職員室で牙城綾香が言った。 「ガソリンが使われたってことだな?」 「さすが毒柴先生ですね?」 「そのアダ名はやめてくれ」  足音が聞こえてきた。スロウチハットをかぶった青年が立っていた。 「君、校舎内では帽子を脱ぎなさい」  加齢臭のする尾藤教頭に青年が叱られる。  青年は臆することなくライフル銃を教頭に突きつけた。尾藤教頭は両手を挙げた。 「こっ、殺さないでくれ!」 「ミニエー銃」  綾香は少しではあるが銃の知識があった。  アメリカは東北諸藩にも銃を売っていた。  大河ドラマ『八重の桜』で綾瀬はるかが果敢に戦うシーンが記憶に蘇る。  青年は素足だった。間違いなくCSAの兵士だ。  CSAは1861年2月に独立宣言をした南部連合を母体にした部隊だ。   イーオンをやっておいてよかった。 「あなた、タイムスリップでもしてきたの?」  そーいえば聞いたことがある。かつてアメリカでタイムマシンが開発されたことに。 「牙城先生、英語話せるの?」  高柴が目を丸くする。  裸足の青年が高柴をギロリとにらみつけた。 「この裏切者」  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加