現代SNS七怪異譚

にじり寄る声の誘惑

　二足歩行のバクが画面内でワタワタと手足をばたつかせているのが可愛い。このバクこそ、バーチャルYouTuberのひとりである『BK』だ。彼はとても人気のあるバーチャルYouTuberだが、噂とも評判とも言えない戯言が囁かれていた。

　彼の声を聴くと「とてもよく眠れる」との他愛ない噂だ。動画を聴くだけならパソコンを立ち上げる必要はない。スマホを枕元に置いて起動させておけばいいのだ。より眠れるのは配信であり、毎晩放送されるYouTubeライブはとても人気が高い。

　今日も眠れぬリスナーたちが、BKの配信にやって来る。放送上を聞く上でのルールはひとつ。「おやすみなさい」とコメントをすることだけが義務付けられている。

　放送に他のコメントはない。絶え間なく「おやすみなさい」のコメントが流れる。BKはそれらを気にすることもなく、取り留めのない雑談を語り続ける。

　いつ訪れても放送は盛況。とはいえ、リスナー全員が眠るこの放送が盛況というべきかどうか。想像すれば異様な光景である。