蔵の中

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 蔵の中

 たまには空気の入れ替えでもと思い、  蔵の大きく重い引き戸の取っ手を引いた。 『…ズ、ズズッ …ズズ…』  地獄から誰かが蘇ったのではないかといったような、  嫌になるような扉を引きずる音に、  少し背筋が寒くなった。  思っていたよりも、  蔵の中は、  ホコリは積もっていなかった。  いきなり冊子が目に入った。  床に投げ出してあるというよりも、  丁寧に置かれているように感じる。  よく見ると、  冊子ではなくアルバムだと感じた。  だが、  少し小さいような気がする。  写真のアルバムではなく、  どうやら切手帳のようだ。  子供の頃に、  このアルバムを見たことがある。  どこで見たのか思い出せないが、  畳の上に置いてあったように思った。  線香の匂いが漂ってきた錯覚を覚えた。  箱からアルバムを取り出した。  表紙には、 『先祖代々』  と書いてある。  墓のようだなと思いながら、  開くと、  何も入っていない。  よく見ると、  先頭ページではなかった。  ひとつ前のページをめくると、  切手が数枚入っている。  二段目の途中まで入っている。  一番先頭の切手に目をやると、  肖像画の様だ。  素早く見渡すと、全てが肖像画だった。    だが、  妙にリアルだと思いながら、  一枚の切手を眺めていた。  印刷ではないなと思った瞬間、  身体が大きく揺さぶられたように暴れ出し、  軽い衝撃を背中に感じた。  ふと気付くと、  蔵の天井が目の前にあった。  大きな人の手が見えて、  素早く暗闇が訪れた…
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