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伴場 理太郎(はんば りたろう)の場合
今日はひどい一日だった。
いや、素晴らしい一日だったのかもしれない。
朝起きた時から体が重くて、声の調子もおかしい。
風邪でもひいたかなとベッドから降りて姿見を見ると、僕の首の回りは血だらけになっていた。
目も良く見えないのでメガネをかけたが、それでも上手く見えない。
めちゃめちゃ血も出てるし、今日は会社を休んで病院とメガネ屋さんに行こうと決めて会社に電話を掛けたけど、夜間の留守電が再生されるだけで誰も電話に出なかった。
小さな会社だから、もしかすると事務員さんがお休みで、留守電に気づかないまま皆営業に出てしまったのかもしれない。
とりあえず後で同僚に電話をしてみる事にして、僕は通話を切った。
しかし、次に電話を掛けたかかりつけの病院も同じく留守電になっているのを聞いて僕は頭をひねる。
今日って祝日かなんかだっけ?
仕方ない、目が良く見えないから車にも乗れないし、少し時間はかかるけど救急外来のやっている大学病院へ向かう事にして、僕はとりあえず歯を磨いて顔を洗い、首に包帯を巻いた後に服を着替えた。
いつもは朝食を食べないんだけど、今日は妙にお腹がすいていたので、とりあえずソーセージとパックのごはんをチンして食べる。
この視力で火を使うのが怖かったからだけど、風邪のせいで味覚がおかしくなっているのか、せっかく作ったご飯もあまり美味しくなかった。
あとで定食屋さんにでも行こう。
時計を見るとたぶん10時を少し過ぎたくらいだ。
表に出てみると、平日のこの時間としては珍しいくらい大勢の人が家の周りをうろうろしている。
やっぱり今日は祝日かなんかだったんだろうか?
相手の顔が良く見えないので、知り合いかどうか良くわからなかったから、それっぽい人全員に「こんにちわ」と声をかける。
ただ、やっぱりのどの調子が悪く、僕の挨拶は「ごぉんヴぃぢヴああぁ」みたいな挨拶になってしまった。
何人かは怒ったように「ヴぁあぁぁ!」って威嚇をしてきたり、「ひぃっ!」と悲鳴を上げて逃げたりしたけど、あれはたぶん全然知らない人だったんだろう。
そりゃあ首から血を流した知らない人にあいさつされたらびっくりするよね。
どうか「声掛け事案」とかで通報されませんように。
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