伴場 理太郎(はんば りたろう)の場合

2/8
前へ
/8ページ
次へ
 駅前につく。  良く見えないけど、電車もバスも動いていないようだった。  電光掲示板も読めないし、駅員さんに聞こうにも、そもそも駅員さんとスーツ姿の人の区別がつかない。  仕方がないので、とりあえず僕は駅前のモールにあるメガネ屋さんへと向かった。  とにかく目が見えない事にはどうしようもない。  しかし、運の悪い事にメガネ屋さんにも店員は居ない。  僕は何度か「ずぅヴぃヴぁァぁぜぇぇん」(すみませーん)と声をかけたけど、一向に出てくる様子の無い店員を諦めて、勝手にいくつかのメガネを試してみた。  どれもしっくりこなかったけど、一番度の強いサンプルをしてみると、普段メガネをかけていない時くらいの視力にはなった。  ピントを合わせるのに集中力が居るため目が疲れるし、フレームのデザインもカッコ悪い。それでも無いより全然ましなので、僕はそのメガネをかけ、名刺に電話番号と「急ぐのでお借りします。料金は後でお支払いします」と言うメッセージを入れてレジ前に置いた。  メガネはこれでよし。……とにかくお腹がすいた。何か食べよう。  そう思ってメガネ屋を出た僕は、噴水の前で泣いている女の子に気づいた。  たぶん幼稚園か、もしかするともっと小さい。  3~4歳くらいだろうか。  堪える様に小さく、それでも抑えきれない嗚咽を漏らして泣いている。  周りに人はいなく、たぶん迷子なんだろうと僕は思った。  ……今日はどうせ知らない人に挨拶して驚かれたりしてるんだ、今更小さい子に声をかけたって僕の評判は変わらないだろう。  僕はなるべく驚かせないようにゆっくりと女の子に近づき、にこやかな笑顔で声をかけた。 「どヴぉうじだぁヴぉぉ?」(どうしたの?)  赤と白のドット柄みたいなワンピースを着た女の子は、驚いた様子で僕を見上げる。  かがんで目線を女の子に合わせて、僕はもう一度聞いた。 「ヴぉどぉぅぅざんがヴぉがぁざんヴぁぁぁ?」(お父さんかお母さんは?)  女の子はふるふると首を振り、スカートの裾で涙を拭く。  そうか、やっぱり迷子か。  どうもこのモールに警備員は居ないみたいだし、駅前の交番に連れて行った方が良いかな?  そんなことを考えていると、女の子は僕の袖をくいくいと引っ張り、顔を近づけた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加