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「おにいちゃんはゾンビですか?」
「ヴぇ? ぢぃがヴよぉヴぉぉぉ」(え? ちがうよー)
「ほんと?! あーよかった! 心優、ゾンビのひとかとおもった!」
心優と名乗った女の子は僕の袖を握ったまま、ぱぁっと太陽のように笑う。
視力が悪くても、ロリコンじゃなくても分かる。これはすごく可愛い子だ。
僕が連れまわしてたら性犯罪者だと思われるやつだ。
とりあえず、警察に行ってみようと言う事にして、僕と心優ちゃんは手をつないでモールを出て交番へと向かった。
メガネをかけたことである程度見えるようになった駅前バスプールは大変な有り様で、僕は思わず呆然としてしまった。
歯茎を剥き出しにした頬肉の無い顔で街をうろつく恐ろしい姿の人々。
事故があったのだろう、所々で炎上する車。
そして、それから逃げようとしている、僕らのような普通の人たち。
「ヴぁれがぁぁぞんヴぃ?」(あれがゾンビ?)
ためしに心優ちゃんに聞いてみると、彼女はこくこくと頷いた。
僕の足にぎゅっとしがみ付き、不安げに周りを見回す巣の姿は庇護欲をそそる。
僕は断じてロリコンではないけれど、こういう女の子を守ってあげたくなる気持ちは良くわかった。
「あのね、心優のママもね、ゾンビになったの」
さらっと衝撃の告白が心優ちゃんから出てしまった。
さらに聞けば、お父さんも一緒にゾンビになったらしい。
兄弟姉妹などはおらず、おじいちゃんやおばあちゃんも早くに亡くなっているっぽい。
親戚は良くわからないけど、どうやらこの子はほぼ天涯孤独の身に間違いなさそうだ。
どうしよう、このまま警察に連れて行ったら施設とかに送られちゃうのかな?
そもそも今この状態で警察って機能してるんだろうか?
僕はちらりと駅前交番へ目をやって、そこをウロウロしている制服姿のゾンビから目をそらした。
「ヴぃゆぢゃぁん、ヴぉながァァずがヴぁい?」(みゆちゃん、お腹すかない?)
「うん、みゆおなかすいた」
「じゃヴぁぁァ、ごヴぁんだべヴぉォォがぁァ?」(じゃあご飯食べようか?)
「うん!」
元気よく返事をする心優ちゃんと手をつないで、僕らはゾンビだらけの駅前を離れる。
人通りの少ない方少ない方と選びながら道を進む僕は、たぶん見る人が見たら、女の子をさらう変質者そのものだろうと思いながら。
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