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「ヴぁアァぁぁあ……」
よたよたと歩くゾンビを電信柱の陰に隠れてやり過ごし、小丸は川沿いの遊歩道へと走った。
車で走った消防署への道は、既に見失ってしまった。
と言うより、そもそもそんなに正確に覚えていた訳でもない。
道に迷って途方に暮れていた小丸だったが、その時、街並みの屋根の上から、良く知るアンテナがチラリと目に入った。
消防署の情報棟にある、大きなパラボラアンテナ。
泣きそうになっていた小丸は、それを見つけると元気を取り戻した。
でも、街なかを歩いていると小丸の身長ではすぐにアンテナを見失ってしまう。
そこで、高い堤防になっている遊歩道を目指したのだ。
母親と何度も散歩をした川沿いの遊歩道からは消防署が良く見える。
それは良く覚えていた。
息を切らせながら階段を駆け上がると、彼の眼に見慣れた景色が広がった。
「消防署!」
その建物はまだまだ遠かったが、それでも思わず声が出る。
慌ててゾンビに聞かれていないかと周りを見回したが、周囲にゾンビの姿は無く、彼は近くにあるベンチによじ登って腰を下ろした。
偶然ではあるが、小丸の選んだこの道は正しい。
ゾンビは立体的な段差の移動をあまり得意としていないため、よほど目立つ目標でもない限り、この急な階段を通らなければたどり着けない遊歩道には寄ってこないのだった。
普段こんなに歩くことはない。
疲れた小丸は、バッグの中から食パンと牛乳を取り出し、消防署を見ながらぱくりとかぶりついた。
味をつけていない食パンと牛乳。
味気ない食事は、それでも彼にまた歩き出すためのエネルギーをくれた。
足をぶらぶらさせながら食事をしている小丸の背後、草むらから「ガサガサ」と音がしたのはその時だった。
怪人だ!
慌ててベンチを飛び下り、小丸は走り出す。
しかし、足がもつれて転んでしまい、アスファルトの上に「べしゃ」っとお腹から突っ伏してしまった。
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