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膝をすりむいた。
血も出ている。
……もう嫌だ。
「……うええ~」
朝から、一度も泣くことのなかった小丸がとうとう泣いた。
地面に突っ伏し、右手に食パンの残りと左手に牛乳パックを持ったまま涙を流す。
その声は、ゾンビを引き寄せる信号になるだろう。
今朝からの経験で、音を立てると「怪人」が寄ってくると理解していた小丸だったが、そんなことはもうどうでもよかった。
とにかくもう我慢できない。
泣いて、泣いて、優しい母親や強い父親に抱き上げてほしかった。
感情に任せて泣いていた小丸の顔に生暖かい息が吹きかけられ、唾液に濡れた舌が頬を這う。
小丸はぎゅっと目を瞑った。
――ぺろぺろぺろ
――へっへっへっへっ
勢いよく頬を舐められ、荒い息を吹きかけられた小丸は、驚いて目を開けた。
茶色と白の毛むくじゃらの顔の中で、黒く輝く目が彼を見つめていた。
その後ろで、もふもふの尻尾が勢いよく振り回されている。
「わんわんだ!」
ぱぁっと顔を輝かせて起き上がった小丸を一心に見つめながら、その柴犬の成犬は行儀よくお座りをして尻尾を振り続けた。
柴犬は時々チラチラとパンに視線を向けながら、辛抱強くお座りをして待つ。
小丸はその視線に気づき、ちょっと汚れてしまったパンから砂を払って、牛乳の残りをしみこませると柴犬に差し出した。
「どうぞ。ぼくもうお腹いっぱい」
言い終わる前に、柴犬は勢いよくパンにかぶりつく。
瞬く間にそれを食べ終え、少し牛乳のついている小丸の手をぺろぺろと舐めると、犬は余韻も何もなく走り去って行った。
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