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小丸は川縁へ降り、手を洗っていた。
食事をして栄養を取り、我慢していた涙を流してすっきりして、自分以外の生き物と触れ合ったことで、かなり気持ちは立ち直っている。
冷たい川の水で手を洗い、ライダーのハンカチで手を拭くと、バッグから取り出したライダーのばんそうこうをすりむいた膝に貼った。
かっこいいライダーの絆創膏を貼っただけで、無限の力が湧いてくるような気持ちになる。
気持ちも新たに立ち上がった小丸は、ついでにバッグから取り出した変身ブレスレットを左手に巻いた。
完全装備。もうこれで彼はほぼライダーだ。
敢然と顔を上げ、もう一度消防署を目指して歩きはじめる。
「きゃあ! やゃぁぁぁ!!」
その小丸の出鼻をくじくように、女の子の悲鳴が響いた。
周囲を見回すと、少し上流の方で、小丸と同じくらいの年齢の女の子と祖父と思われる老人がゾンビに囲まれていた。
老人は左足に怪我をしている様子で、もう逃げるのを諦めたように女の子を抱きかかえてうずくまっている。
ライダー気分になっていた小丸は、思わず叫び声をあげた。
「やめろ! かいじんども!」
ゾンビたちは突然の大声に振り返り、老人と女の子を襲うのを止めた。
小丸は変身ブレスレットのスイッチを押す。
――ぴぴぽぽぴぽ! ぎゅんぎゅんぎゅん!
『レディ!』
電子音が鳴り響き、カードスロットのLEDが輝いた。
右手に持った虹色のレアな変身カードをスロットに突っ込む。
「へんしーん! ハイパーりゃイダーモード!」
――どぅぎゅるるるるるる!! ぎゅわぁぁぁぁぁ! っばしゃーん!!
『ハイパーライダーモード! キドウシマシタ!』
いかにもと言った感じの合成音声が響き、ついでライダーのオープニングテーマソングが鳴り始める。
河川敷に流れるその音質の良くないテーマソングに、ゾンビたちは我先にわらわらと群がった。
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