1人が本棚に入れています
本棚に追加
……突然の「ドンっ」と言う衝撃に、小丸と友里は目を覚ました。
隣で毛を逆立てた柴犬が前を見ながら低く唸っている。
前を見ると、車のボンネットは電信柱に食い込むように拉げ、エンジンルームからは煙が上がっていた。
「おじいちゃん? 大丈夫?」
友里が目をこすりながら老人に声をかける。
それに答えたのは「ヴぁあぁァ!」と言う例の唸り声だった。
「きゃあ!」
「あ! かいじんだ!」
シートベルトで体を固定されているために、こちらをふり無ことが出来ない老人のゾンビから体を離して、小丸は友里の手を引く。
それでも老人を心配して手を伸ばした友里がゾンビに引っかかれそうになったところを柴犬がゾンビの腕を噛みちぎり、何とか逃げることが出来た。
小丸は何度も「おじいちゃん!」と泣き叫ぶ彼女を無理やり引っ張って、命からがら車の外へと逃げ出した。
車の衝突の音に集まり始めたゾンビから隠れ、小丸たちは近くの家の塀と庭の木の間に滑り込む。
柴犬も尻尾を振りながらついて来て、大人しくそこに座った。
「しずかにして、ゆうりちゃん! おじいちゃんは、かいじんと入れ替わっちゃったんだ! ほんもののおじいちゃんを助けにいこう!」
「……あれはおじいちゃんじゃないの?」
「うん、にせものだとおもう」
「じゃあ、おじいちゃんはどこにいるの?」
「わかんないけど、僕のパパにきけばぜったいしってる!」
「なんで?」
「パパは消防士で、すごくつよくて、せいぎの味方だから!」
「すごい! じゃあ、こまるくんのパパのとこいこう!」
「うん!」
話は決まった。
知らない人の家から出て、柴犬が先頭を切って走る方向へと小丸たちは急いだ。
柴犬の危機察知能力により、物陰に隠れてゾンビをやり過ごし、時には知らない人の家の庭を横切ったりしながら、彼らの冒険は1時間以上にも及ぶ。
疲れ果てた小丸たちは、小さな公園のゾウの形をした滑り台の上で休憩を取った。
柴犬は雑草を食べて何かを吐き出したりしていて、2人と同じように疲れている様子だった。
老人から渡されていたビスケットを2人と1匹で分け合う。
それを一口かじると、友里はぽろぽろと涙を流した。
最初のコメントを投稿しよう!