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「満くんこっちに小春を連れてきて……!!」
「は、はいっ!!」
ぐったりと動かなくなった小春を背負い、奥の部屋に走っていった雫さんを追いかける。
意識のない人間は重いと言うけれど、小春の身体は全然重くない。
それどころか、異常なまでに軽く、人間だとは思えないほどだ。
歩くたびにどんどん彼女の重さが消えていく。触れた感触はあるのに、まるで綿だ。
いったい何がどうなっているのだろう、得体の知れない恐ろしさに泣きそうになりながら、必死に彼女の後を追いかけた。
奥の扉を抜け、資料庫のような場所を抜けた先にある真っ白な扉の上に、雫さんは必死の形相で文字を書き続けている。
この厳重そうな扉のロックを解除しているのかもしれない。
僕は居ても立っても居られず、その背中に叫んだ。
「雫さん……!!小春はどうしちゃったんですか!!」
「……この世界の人間は身体の中に魔力がないと存在していられないの。通常、魔力は血液のように循環して体内を巡り、自己生成していくもの。そして、体内の魔力が底を尽きると跡形もなく、消えてしまう」
嫌な汗が頬を伝う。
彼女は僕に目もくれず、長い論文を書くように扉の上に何度もペンを走らせた。
厳重に鍵をかけているようだけれど、この部屋にそんなに大事なものがあるのだろうか。
「……小春はね、魔力を体内生成出来ないの」
「そんな……!!」
その言葉に僕は背負っていた少女の腕を掴んだ。
触れられる。まだ彼女は生きている。
きっとこの中に小春を助けるアイテムがあるのだろう。けれど、扉のロックは厳重で、未だに開く気配はない。
この時間がもどかしかった。
「体内で魔力を生成できないなんて、普通は有り得ないわ。症例もなく、他人からの魔力を分け与える方法は今の所……存在していない」
「じゃぁ……じゃぁ小春はどうなるんですか!!!」
「……開いたわ」
僕が叫ぶのとほぼ同時に、扉の鍵が開く音がした。
重い扉を開いて雫さんが部屋の中に入る。僕もそれを追いかけ一歩、部屋の中に足を踏み入れた。
そして、絶句した。
そこには無数の小さな箱が積まれていた。
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