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「満くん、小春をここへ!……満くん!!」
名前を呼ばれても、足が地面に張り付いたように動かない。
壁一面に沿って積まれたその小さな箱は、僕の妹だった。
いや、違う。
僕の妹と同じ、ただ命を紡ぎ続けるだけの箱。
「何で……」
「はやく連れてきて!!小春を……妹を殺したいの!?」
その言葉にはッとして、重たい脚を引きずりながら、彼女が待つ寝台の上へと小春を運んだ。
青白くなった肌は生気を感じさせず、身体全体が仄かに発光して見えた。
雫さんはその胸元に小さな箱を一つ置き、その上に何か文字を書き込む。
そうすると、箱は淡く光を放った。
僕は咄嗟に死神の能力を使い、その箱を見る。
八重樫亮、年齢十九、死亡年月日は今日。
その小さな箱は確かに、会社から言われていた目標の一人だ。
ゆらゆらとゆれる炎が徐々に弱まって消えていく。
ものの数分で、彼の命の炎は消え、その小さな箱の下に眠る少女の身体は色を取り戻し始めていた。
僕はそのまま、壁に積まれた箱の山を見上げた。
どれもただの箱だ。命を灯す灯は見えない。
けれど、床に散らばった幾つかの箱には今の彼と同様に、目標である人間の名前が浮かび上がっていた。
探していた人々の魂が今、全てここにある。
目標の名前が書かれた箱を雫さんが拾い上げ、また同じように彼女の胸元に置く。
そうするとまた、命の炎が消えて、小春の血色がよくなる。
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