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「……ねぇ雫さん、何してるんですか?」
「小春に魔力を上げているの」
「これ、何だか分かってますか?人の……人の命です。分かっててやってるんですか!?」
「分かってるわよ!!でも、こうしないと小春は生きられないのよ……仕方ないでしょ!!」
「だからって……!!」
分け与えることが出来ないのなら、奪うしかない。
けれど、そんな事が許されるのだろうか。
他人の命を奪って生きながらえる命に、この子は納得がいくのだろうか。
その事実に、この優しい少女が耐えられるのだろうか……
「これが間違ってる事くらい分かってるわよ……でも、だからってこの子を諦める事なんて出来ないじゃない……」
「雫さん……」
「この子が望まないのも分かってる……でも、それでも私は何を犠牲にしても、この子を助けたかった」
ついさっきまで、僕を励ましてくれていた彼女はどこにもいなかった。
あんなに僕を支え温めてくれた手は震え、その身体は今にも折れてしまいそうなほど細い。
瞳から零れる大粒の涙が痛々しかった。
「お願い……小春には言わないで、この子に罪はないの……全部、私が悪いの」
彼女は暴走してしまったのだろう。
すれ違って分かち合えなくて、僕の妹を助けるために戦ってきた。
どれ程の痛みだっただろう。
無数に積み重なるこの箱の山は、彼女が選んだ道の果。
僕に送った言葉はきっと全てが、彼女の願いだった。彼女の後悔だった。
「雫さん、話し合いましょう?話せば、分かり合えるはずだって……」
「……無理よ。君は、自分がこんなに沢山の命の上に生きていると知って、生きていられる?これから先も、他人の命を奪って生き続ける事に耐えられる?無理でしょ、無理よ……優しい子だもの」
胸元の箱が床へと落ちる。
「ずっと前に、選ばなきゃいけない時が来たの。……小春が死ぬか、こうやって延命を繰り返すか、二つに一つしか道はなかった。私は……この子に何も言わず、選んだ。君たちを見ていると、その時の事を思い出す」
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