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床に散らばった箱を、雫さんは一つ一つ拾い上げると中途半端な高さに連なっていた箱の上に積み重ねる。
彼女より少し背の高い箱の塔は、今にも崩れそうなアンバランスさでもなお、立ち続けていた。
まるで彼女の心のようだ。
「後悔したわよ。もっとよく考えて、もっと……この子とちゃんと話せばよかったって。そうすれば小春は、無垢なままで生きて行けたかもしれないって」
あの子は生きているだけで罪を背負っていく。
何も知らないまま、人の未来を奪って笑って、これからも生きていくのか。
「私はいつも罪の意識に苛まれる。後悔と懺悔がずっと心を蝕んで、死にたくなるような日々。……でも私の我儘で生きている小春を、殺すわけにはいかないでしょ?だから生きなくちゃ。……泥沼のようね。でも、幸せなの。君から見たら不幸せかもしれなけれど、私は幸せよ」
雫さんは笑っていた。
悲しいのか嬉しいのか、よく分からない表情。
でも、その笑顔は美しい。
「君たちには、こんな結末になって欲しくはない。……でも、君が小春に言うなら別。死んで、いま、ここで……」
雫さんは一歩、僕に近づくとペンを構えた。
応えなくちゃ、でもなんて言えばいいのだろう。
身体が動かない、どうしよう、どうしよう――
ガシャン、と背後で何かが崩れる音がした。
「二人とも逃げて……!!」
遠くから綴の悲鳴のような声が聞こえてきて背後を振り返ると、遠くの廊下に倒れる綴の姿があった。
その身体は何故か妙に傷だらけで、彼が動くたびに酷い血が滴った。
長く綺麗な純白だった耳は血で赤く染まり、左の耳が短くなっている。
「つ、綴……!!」
「来なくていいから!!小春を守って……!!」
守れって一体何から……!!
そう思った瞬間、フワリと熱い風が僕の横を通り過ぎた。
その風に乗って甘いバニラの匂いが――
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