3話 後編

3/29
前へ
/302ページ
次へ
「あの、ここはどこでしょう」 「えー地獄?」 「地獄……!!」 「冗談」 泣いてスッキリした僕は、ようやく自分の今の状況を客観的にとらえることが出来た。 辺り一面、何もない……本当に気が狂いそうなほど何もない真白な空間。 僕も先輩も真っ黒なローブを羽織り、全身はボロボロ。 最後の記憶はあの……小さな箱が降り注いで眩い閃光に包まれた時だ。 「恐らく、あの女の魔法でどっか遠くに飛ばされたんだろうな」 「でしょうねぇ。でも殺されなかっただけ有難いです」 「こんな更地に何もなしに放り出されて、殺されなかったとかお前本当に、おめでたい頭してるよな。お人好しじゃなくて、それはただのバカ」 「うっ、うるさいなぁ……!!」 僕と先輩は顔を見合わせて笑い合った。 何だか懐かしいやり取りだ。 最近はずっと意識しすぎて、まともにこの人の顔が見れていなかった。 ずっと逸らし続けていたけれどやっぱこの人、相当な美人だよなぁ…… 煤や血で汚れた顔をごしごしと拭ってあげると、先輩は僕の手を掴んで頬に寄せてきた。 温かい。 「ねぇ先輩、僕は貴方の事が好きです」 「ん、知ってる。ずっと顔に書いてあったからな」 「でも全然言葉にはしなかった。怖くて逃げだして、すみません……もっと、僕がちゃんと全部伝えてたら、こんな……んッ」 唇が触れる。 呼吸を奪うわけでも快楽を与えるだけでもなく、ただ触れるだけ。 「俺はさ、これでもまーいいかって思うんだよ。言ったろ、俺の幸せはお前と一緒に居る事だって。……だから今、めちゃくちゃ幸せ」 「せんぱいっ……!!僕も、ぼくも先輩の隣にいられるなら、それでよかった。今、すっごく幸せです……」 「そっか。よかった、俺はお前のこと、ちゃんと幸せに出来たんだな」 「はい……」 先輩は僕を抱きしめてくれた。 骨が軋むくらい、一つになれるくらいキツく強く、強く。 あぁ、幸せだ。 「俺は窪塚と死ねるなら本望だよ。もうさ、何も考えないで最期まで一緒に居たい」 耳元で先輩が笑う。 それは嘘でも悲嘆でもなく、ただ純粋にそう願っているのだと分かった。 僕だって同じ気持ちだ。
/302ページ

最初のコメントを投稿しよう!

930人が本棚に入れています
本棚に追加