930人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの、ここはどこでしょう」
「えー地獄?」
「地獄……!!」
「冗談」
泣いてスッキリした僕は、ようやく自分の今の状況を客観的にとらえることが出来た。
辺り一面、何もない……本当に気が狂いそうなほど何もない真白な空間。
僕も先輩も真っ黒なローブを羽織り、全身はボロボロ。
最後の記憶はあの……小さな箱が降り注いで眩い閃光に包まれた時だ。
「恐らく、あの女の魔法でどっか遠くに飛ばされたんだろうな」
「でしょうねぇ。でも殺されなかっただけ有難いです」
「こんな更地に何もなしに放り出されて、殺されなかったとかお前本当に、おめでたい頭してるよな。お人好しじゃなくて、それはただのバカ」
「うっ、うるさいなぁ……!!」
僕と先輩は顔を見合わせて笑い合った。
何だか懐かしいやり取りだ。
最近はずっと意識しすぎて、まともにこの人の顔が見れていなかった。
ずっと逸らし続けていたけれどやっぱこの人、相当な美人だよなぁ……
煤や血で汚れた顔をごしごしと拭ってあげると、先輩は僕の手を掴んで頬に寄せてきた。
温かい。
「ねぇ先輩、僕は貴方の事が好きです」
「ん、知ってる。ずっと顔に書いてあったからな」
「でも全然言葉にはしなかった。怖くて逃げだして、すみません……もっと、僕がちゃんと全部伝えてたら、こんな……んッ」
唇が触れる。
呼吸を奪うわけでも快楽を与えるだけでもなく、ただ触れるだけ。
「俺はさ、これでもまーいいかって思うんだよ。言ったろ、俺の幸せはお前と一緒に居る事だって。……だから今、めちゃくちゃ幸せ」
「せんぱいっ……!!僕も、ぼくも先輩の隣にいられるなら、それでよかった。今、すっごく幸せです……」
「そっか。よかった、俺はお前のこと、ちゃんと幸せに出来たんだな」
「はい……」
先輩は僕を抱きしめてくれた。
骨が軋むくらい、一つになれるくらいキツく強く、強く。
あぁ、幸せだ。
「俺は窪塚と死ねるなら本望だよ。もうさ、何も考えないで最期まで一緒に居たい」
耳元で先輩が笑う。
それは嘘でも悲嘆でもなく、ただ純粋にそう願っているのだと分かった。
僕だって同じ気持ちだ。
最初のコメントを投稿しよう!